
©Jun Uruno
2025年シーズン全日本ラリー選手権第6戦「RALLY HOKKAIDO」が、9月5日(金)~7日(日)にかけて、北海道帯広市を拠点に開催された。トップカテゴリーのJN-1クラスは新井大輝/立久井大輝(シュコダ・ファビアR5)が優勝。2位に奴田原文雄/東駿吾(トヨタGRヤリス・ラリー2)、3位に福永修/齊田美早子(シュコダ・ファビアRSラリー2)が入った。
■レグ1
シーズン初のグラベルイベント第5戦カムイから約2カ月のインターバルを経て、十勝地方を舞台とするシリーズのビッグイベント、ラリー北海道を迎えた。SS総距離が100kmを超えるラリー北海道のポイント係数は1.5、レグポイントを合わせて、最大33点を獲得できるシーズンの天王山となる。
競技初日は、午前中に「パウセカムイ・ショート(9.47km)」と「リクベツ・ロング(4.63km)」を、「ヤムワッカ・リバース(23.53km)」を挟んで2回走行。陸別に設けられた20分のリモートサービスを経て、午後は2回目の「ヤムワッカ・リバース」、3回目の「パウセカムイ・ショート」と「リクベツ・ロング」を走る8SS、89.36km。ラリーの山場となるロングステージのヤムワッカは、久しぶりに逆走方向で設定された。
5日金曜日には、恒例となったラリーショーとセレモニアルスタートを帯広駅前で実施。6日土曜日から本格的なラリーが幕を上げた。選手権のそのほかのイベントであれば、ひとつのイベントに相当する距離を1日で走行するこの日、レッキの段階ではウエットが残っていたものの、天候は快晴。コンディションは、木の陰などには湿り気は残るもののほぼドライとなった。
オープニングのSS1は勝田範彦/保井隆宏(トヨタGRヤリス・ラリー2)が、同タイムで2番手の奴田原と新井大輝に1.9秒をつけるベストタイム。鎌田卓麻/松本優一(ファビアR5)が2.5秒差の4番手、新井敏弘/小坂典嵩(スバルWRX VBH)が5.1秒差の5番手で続く。ヘイキ・コバライネン/北川紗衣(トヨタ・GRヤリス・ラリー2)は、スタートから2km地点で4速を失いながらも6.7秒差の6番手で走り切ったが、SS2へと向かうリエゾンでギヤボックストラブルからストップ。レグ離脱を余儀なくされている。
多くの観戦エリアが用意された陸別サーキットと周辺路を走行するSS2は、奴田原が新井大輝に0.7秒、勝田に1.7秒、右フロントをイン側にヒットした鎌田に3.4秒差をつけるベスト。ラリー最長の23.53kmを走行するSS3では、新井大輝が奴田原に5.5秒、勝田に19.1秒差をつける一番時計をたたき出し、一気にトップへと駆け上がった。勝田は奴田原にも抜かれ、総合3番手にドロップ。総合4番手につけていた鎌田はコースオフを喫して、ラリー続行を断念している。
新井大輝はSS4でも連続ベストを刻み、総合2番手の奴田原との差を6.2秒に拡大。午前中を締めくくるSS5は奴田原が新井大輝を0.4秒上まわり、その差を5.8秒に縮めた。42.8秒差の3番手に勝田、1分10秒0差の4番手に新井敏弘、1分11秒4差の5番手に福永がつけている。
陸別での20分間のリモートサービスを挟んだ午後のセクション。2回目のヤムワッカ・リバースを走るSS6では、新井大輝が奴田原を9.8秒突き放すベストタイムをマークし、その差を一気に15.6秒差まで拡大した。ここまで3番手をキープしていた勝田は、スタートから19km地点でコースオフ。走行復帰が叶わず、ラリーリタイアとなった。これで新井敏弘が3番手、福永が4番手とひとつずつポジションを上げた。
SS7も新井大輝が奴田原に0.6秒差をつけて、この日4度目のベストタイムをマーク。奴田原との差を16.2秒に拡大した。しかし、3番手の新井敏弘はステージ中にエンジントラブルが発生し、痛恨のストップ。これで福永が2分11秒0差の3番手に順位を上げた。続くSS8もベストは新井大輝。奴田原が0.7秒差でSS2番手、福永が9.8秒差のSS3番手で続き、初日を終えた。
新井大輝は奴田原との差を16.9秒として、長くタフな1日を走り切った。2分20秒8差の3番手に福永、5分05秒2差の4番手に今井聡/高橋芙悠(シトロエン C3 R5)がつけている。
多くの有力クルーがリタイアする荒れた展開のなか、しっかりと首位の座を守った新井大輝は「中間サービスでアライメント取りにミスがあったことで、午後はアライメントが狂った状態で走らざるを得ませんでした。それでも、初日で10秒くらいはリードを築いておきたいと思っていたので、なんとか及第点ですね」と、冷静に振り返った。
新井大輝には及ばなかったものの、しっかりと2番手をキープした奴田原は「頑張りましたけど、新井大輝選手に少しずつ離されてしまったのはダメでしたね。もう少し攻めることができそうですが、やってしまうと落ちてしまいそうで……。若くないので、思い切っていけなかったです(笑)。明日は距離は短いですが、まだ分からないので、頑張ります」と、コメントした。
JN-2クラスは、三菱ランサーエボリューションⅨを投入したシリーズランキングトップの山田啓介/藤井俊樹が、ターボパイプのトラブルによりSS3でレグ離脱。第2戦を制した大倉聡/豊田耕司(トヨタGRヤリスDAT)もSS3でパンクを喫して5分をロスし、優勝争いから早々と脱落する。そんな中、MORIZO Challenge Cup(MCC)にエントリーする大竹直生/橋本美咲(トヨタGRヤリス)と、ベテランの松岡孝典/坂口慎一(スバル・インプレッサWRX STI)が僅差のバトルを展開した。
SS1を制した大竹が、SS2を終えて松岡を7.8秒リードするが、ロングステージのSS3でベストを奪った松岡が一気に逆転。大竹に8.9秒差をつけてトップに立った。SS4でこの日2回目のベストを奪取した大竹は、SS5ではベストの内藤学武/大高徹也(GRヤリス)に1.3秒差のセカンドベストで、松岡を1.0秒差ながらも再逆転する。首位奪還を狙った松岡だったが、続くSS6のスタート9km地点で痛恨のコースオフ。マシンにダメージは少なかったものの、ここでレグ離脱を余儀なくされた。松岡の脱落で、内藤が2番手に浮上。大竹はSS7でもベストタイムを刻み、内藤に42.6秒の大差をつけて初日を首位で終えた。49.8秒差の3番手に石川昌平/大倉瞳(GRヤリス)、1分13秒8差の4番手にMCCの米林慶晃/木村悟士(GRヤリス)。SS2でベストタイムをマークしたMCCの長尾綱也/安藤裕一(GRヤリス)は、米林までわずか7.6秒とMCCで僅差の2位争いを展開している。
JN-2の強豪を抑えて首位を快走した大竹は「熱対策でヒーターをつけていたのですが熱中症にかかってしまい、ロングステージは体調に不安がありましたが、それ以外は、少し頭痛があった以外は問題なく走れています。今回はマシンのセッティングが完璧に決まっていたので、ロングステージのヤムワッカも含めて楽しく走れました」と振り返った。
トヨタGR86/スバルBRZによって争われるJN-3クラスは、3年連続チャンピオンに王手をかける山本悠太/立久井和子(トヨタGR86)が、SS1とSS2で順調にベストを重ねる。ロングステージのSS3ではトラブルのためスロー走行していた前走車6台に追いついてしまうアクシデントがあり1分以上をロスしたが、救済タイムが与えられトップの座を堅守。SS6では、4番手につけていた曽根崇仁/小川由起(GR86)が、スタートから18km地点でコースオフ。2番手を走行していた上原淳/漆戸あゆみ(スバルBRZ)は、SS7を走り切った後、エンジントラブルからラリー続行を断念した。この結果、JN-3クラスは、首位の山本と2分18秒5差の2番手につける加納武彦/島津雅彦(BRZ)のみという状況となった。
優勝を争うライバルが次々と脱落する中、しっかりと首位を走行した山本は「例年のごとくサバイバルラリーになりましたね。自分はクルマを痛めることなく、いいペースで走れました。曽根選手がコースオフ、上原選手がエンジントラブルに見舞われて、加納選手ともかなり差がありますが、明日も気を抜かず走ります」と、独走体制にも油断する様子はない。2番手の加納は「良かったり、悪かったりで、悪かった方が多かったですね。それでもトラブルなく生き残って、まずは無事に帰ってこられて良かったです」と、安堵の表情をのぞかせた。
JN-4クラスは、ランキングトップに立つベテランの高橋悟志/箕作裕子を、鮫島大湖/船木佐知子、筒井克彦/猪熊悠平、全日本初シーズンながら勢いを見せる若手の藤原優貴/宮本大輝が追うスズキ・スイフトスポーツ同士の混戦となるなか、今回は「このラリーに出場するために、2年前から準備していた」という小舘優貴/伴英憲(三菱FTO)が首位を快走。SS1からSS4まで4連続ベストをたたき出し、2番手以下を一気に突き放す。2番手の鮫島がSS5とSS6でベスト獲り返すが、SS7とSS8はふたたび小舘が連取し、鮫島との間に45.4秒のギャップを築いて初日を終えた。1分24秒2差の3番手に藤原。前戦でも発生したエンジンの不調に見舞われた高橋はペースを上げられず、6分25秒7差の4番手と大きく遅れている。
近年の全日本ラリー選手権では珍しいFTOで首位に立った小舘は「頑張って準備したので、結果がしっかり出せて良かったです。2年前は三菱ミラージュで走ってリタイアしたので、そのリベンジですね。FTOはミラージュのパーツを流用できますし、エンジンも2.0リッターでパワー面でもアドバンテージがあったと思います」と、笑顔を見せた。小舘の先行を許した鮫島は「ぼちぼち合格点という感じですね。今日は小舘選手が速かったので、もう少しプッシュしたかったです。危ない場面は何回ありましたが、道の真ん中にはいられたので、良しとします」と、コメントしている。
JN-5クラスは、大会連覇を狙う松倉拓郎/山田真記子(トヨタ・ヤリス)が、ラリー序盤からライバルを一蹴。SS1では「ブレーキが温まっていなくてスタートから1km地点でコースオフしかけ、もう終わったと思いました」と振り返りながらもベストを奪い、その後もSS7まで7連続ベストを叩き出す。終わってみれば、2番手の小川剛/山本祐也(ヤリス)に2分31秒6、3番手の三苫和義/遠藤彰(ホンダ・フィット)に2分34秒0差をつけて、初日を首位で折り返した。
得意のグラベルで圧倒的な強さを見せつけた松倉は「距離の長いヤムワッカが大変でしたが、とりあえず何事もなく帰ってこられて良かったです。無理せず走りましたが、所々に大きな穴があってヒヤッとしました。3回目のパウセカムイでは轍にリヤバンパーを引っ掛けてしまいましたが、大きな影響はなかったようです」と、冷静に振り返った。
JN-Xクラスは、チャンピオンに王手をかけた天野智之/井上裕紀子(トヨタ・アクア)が、この日行われた全SSでベストタイムを獲得。2番手の中西昌人/山村浩三(ホンダCR-Z)に4分07秒1、3番手の清水和夫/山本磨美(トヨタ・ヤリス)に4分15秒8という大差をつけて、首位を独走する。序盤2番手を走行していた海老原孝敬/蔭山恵(ホンダCR-Z)は、SS3の中盤でコースオフ、レグリタイアを喫している。
今回も2番手以下を寄せ付けず、首位をひた走る天野は「SS1でドライブシャフトにトラブルが発生して、ヒヤヒヤする場面がありました。あと、ハイブリッドのアクアは、上りセクションが中心のヤムワッカは厳しいですね。すぐにバッテリーがなくなってしまって、かなりキツかったです」と、コメント。清水と僅差の2番手争いを続けた中西は「調子は悪くないです。まずまずのペースで走ることができましたが、陸別サーキットでは清水さんに勝てないですねぇ。舗装区間でがっつり負けてしまいました」と、肩をすくめている。
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