
©Naoki Kobayashi
2025年8月にタイで開催されたアジアクロスカントリーラリー(AXCR)で優勝したチーム三菱ラリーアートが、東京・田町の三菱自動車本社ショールームで優勝報告会を開催した。出席したのは増岡浩総監督と、優勝クルーであるチャヤポン・ヨーター/ピーラポン・ソムバットウォンの3人。8LEGにわたる過酷な戦いの様子、勝利の要因などを報道陣に説明した。
増岡浩総監督「チームワークの強さが勝因」
「4回目の参戦となったAXCRですが、振り返りますと、例年にも増して非常にタフなラリーでした。昨年は勝利の目前でトラブルに見舞われるという悔しい思いを味わい、今年こそはという強い意志を持って参戦しました。優勝を目指して臨んだラリーですが、序盤から波乱の連続でした。幕開けでした。
初日には、社員ドライバーの小出(一登)選手が追突。3日目には田口(勝彦)選手がサスペンショントラブルに見舞われ、5日目にはトップのチャヤポン選手がスタックするなど、次々と困難が襲いかかりました。他の多くのチームにもトラブルがある難しい戦いの中で我々が勝利できた最大の要因は、トラブルによるタイムロスを最小限に抑えられた点です。これは、チーム一丸となった素晴らしいチームワークの賜物だと感じています。
たとえば、田口選手のサスペンション修理では、本来であれば20分ほどかかる作業を9人がかりでわずか9分40秒で完了させ、ペナルティなしで再び競技に送り出すことができました。メカニックたちは連日夜遅くまでマシンのメンテナンスにあたり、ドライバーが安心して走れる環境を整えてくれました。
来年はディフェンディングチャンピオンとして、連勝というさらに高いハードルに挑むことになります。皆様のさらなるご声援を、どうぞよろしくお願いいたします」
チャヤポン・ヨーター「2度目の勝利を飾ることができ、本当にうれしい」
「幼い頃、テレビで見たWRCやダカールラリーで活躍する三菱チームに憧れていました。いつか自分もこのチームの一員になりたい、という夢が叶い、そして2度目の総合優勝を飾ることができて、本当にうれしく思います。昨年は優勝目前でリタイアという悔しい結果に終わりましたが、今年は雪辱を果たすことができました。マシンの性能は大幅に向上し、特にスタビライザーの改良によって、コーナリングや悪路での高速走行性能が格段に上がりました。
ラリー最終日のスタート前には、ラジエターにトラブルが発生しましたが、小出選手のクイックサポートのおかげで、なんとか無事に走ることができました。スタートにはギリギリで到着し、準備時間もほとんどなく、大きなプレッシャーがかかりました。ですが、スタートまでの1分間で、それまでのトラブルや不安をすべて忘れ、『残りの50kmを走り切ることだけに集中しよう』と気持ちを切り替えました。この精神的なコントロールが最後の走りにつながり、優勝を掴むことができたのだと思います。
優勝することは難しいですが、勝ち続けることはもっと難しい。来年もこの座を守れるよう、全力を尽くしたいと思います」
ピーラポン・ソムバットウォン「緻密な準備の積み重ねが勝利を引き寄せた」
「私の仕事は、夕方に翌日のロードブックを受け取るところから始まります。まずロードブックを徹底的に研究し、コースの特性を頭にたたき込みます。そのうえで、どうすればドライバーのチャヤポン選手に簡潔かつ正確に情報を伝えられるか、言葉を選びながら戦略を練ります。
やり方は人それぞれですが、私はロードブックのマーキングに2色を使い分けています。緑色は『はっきりと確認すべきポイント』、赤色は『危険箇所』として、視覚的に分かりやすくしています。チームミーティングでも確認し、意見が分かれた場合は徹底的に話し合って不明点を解決します。そうして予測したルート状況を見て、メカニックチームに最適な車両セッティングを依頼するのです。この緻密な準備の積み重ねが、今回の勝利に繋がったのだと確信しています」
今年のAXCRは3台体制とし、リソースを集中させることで勝利を目指したチーム三菱ラリーアート。「優勝を狙えるチャヤポン選手と田口選手の2台に集中する『2トップ体制』を敷いたことがチームの結束力を高め、強固な体制を作りあげたことが、勝利につながったと感じています」と、増岡総監督は振り返る。この場で2026年大会への正式な参戦表明はなかったが、正式発表を楽しみに待ちたいところだ。