
©Jun Uruno
2025年シーズン全日本ラリー選手権第5戦「2025 ARK ラリー・カムイ」(グラベル)が、7月4日(金)~6日(日)にかけて、北海道虻田郡ニセコ町を拠点に開催された。トップカテゴリーのJN-1クラスは、奴田原文雄/東駿吾(トヨタGRヤリス・ラリー2)が優勝。2位に鎌田卓麻/松本優一(シュコダ・ファビアR5)、3位に勝田範彦/保井隆宏(GRヤリス・ラリー2)が入った。
■レグ1
開幕戦からモントレーまで続いてきたターマック4連戦を経て、第5戦は北海道虻田郡ニセコ町のグラベルステージを舞台に開催される第5戦ラリーカムイ。初日は「STREAM(11.04km)」、「ORCHID SHORT(12.55km)」、「KNOLL(7.77km)」の3SSをループ。午前中は3SSに加えて、新たなギャラリーステージ「NEW SENMU(0.33km)」を走行する計7SS、63.05kmが設定された。
7月5日、青空が広がるなか、サービスパークが置かれたニセコアンヌプリ国際スキー場の駐車場ではセレモニアルスタートを実施。各クルーは総走行距離100kmを超えるシーズン初のグラベルステージへと向かった。前日のレッキは雨に見舞われており、路面には木の影など一部にダンプが残る判断の難しいコンディションとなった。
SS1、シーズン2連勝中の新井大輝/立久井大輝(シュコダ・ファビアR5)が、奴田原に3.6秒、勝田に7.1秒、ヘイキ・コバライネン/北川紗衣(GRヤリス・ラリー2)に8.8秒差をつけ、幸先よくベストタイムを刻む。
この日最長の12.55kmを走るSS2、ラリーをリードしていた新井大輝が、インタークーラーホースが抜けるトラブルにより大幅にスローダウン。1分以上を失いながらステージを走り切ったが、その後に無念のリタイアを決めた。新井大輝の脱落により、このステージを制した奴田原が勝田に6.8秒差をつけて首位に浮上する。SS3は奴田原が、鎌田に4.2秒差、コバライネンに5.1秒差をつける連続ベスト。ここでは鎌田が、福永をかわして4番手にポジションアップを果たした。
多くのギャラリーが集まったSS4は、コバライネン、鎌田、福永が同タイムの一番時計。0.2秒差のSS4番手タイムでまとめた奴田原が、勝田に13.2秒差をつけて午前中を首位で折り返した。15.8秒差の3番手にコバライネン、24.5秒差の4番手に鎌田、32.0秒差の5番手に福永、33.2秒差の6番手に新井敏弘/小坂典嵩(スバルWRX VBH)続く。
サービスを挟んだ午後のセクション。SS5は奴田原がコバライネンに1.3秒、鎌田に4.9秒差のベストタイム。コバライネンが勝田をかわし、首位の奴田原から17.1秒差の2番手に順位を上げた。
続くSS6、「いいフィーリングで走ることができている」と話していたコバライネンが、インプットシャフトを壊してストップ。さらに3番手につけていた勝田もフィニッシュ直前でリヤが砂に乗ってコースオフを喫してしまう。なんとかコースに復帰したものの、勝田はこのステージで30秒近くを失うことになった。このステージで今回初のベストをマークした鎌田がトップの奴田原から27.8秒差の2番手に浮上。勝田は5番手に順位を落とし、福永が3番手、新井敏弘が4番手と、それぞれ順位を上げた。
この日最後のSS7は、奴田原がベストタイムで締めくくり、2番手につける鎌田との差を28.6秒に広げて初日を終えた。52.6秒差の3番手に福永、SS7で新井敏弘をパスした勝田が、1分1秒8差の4番手。勝田に2.8秒差の5番手に、グラベルに向けて足まわりを再調整した新井敏弘が続いた。
ライバルの多くが脱落するなか、ノートラブルで初日を首位で走り切った奴田原は「まずは無事に戻ってこられて良かったです。午前中と同じように、午後もトータルパッケージを活かして走ることができました。轍はかなり深かったんですが、これは周りも同じ状況なので。明日、しっかり走れば大丈夫なアドバンテージを確保できたと思います」と、冷静にコメント。2番手につける鎌田は「クルマのペースが上がって、思いどおりに走れています。R5で走る初めてのグラベルラリーなので、試行錯誤しながらいい方向が見つけられたのは良かったです。すごく乗りやすいですし、チームも改善プランをいろいろと提示してくれています」と、笑顔で振り返った。
JN-2クラスは、MORIZO Challenge Cup(MCC)において開幕から4連勝中の大竹直生/橋本美咲(トヨタGRヤリス)がSS1でベストタイムを刻むと、その後も順調にトップを快走する。2番手の松岡孝典/坂口慎一(スバル・インプレッサWRX STI)がSS3でベスト刻むが、続くSS4では、オーバーヒートが起因してのガス欠により、フィニッシュ後にリタイア。一方、大竹はSS6まで首位の座をキープするが、午後は荒れた路面を警戒してペースを抑えた。この結果、SS7で今回初ベストの内藤学武/大高徹也(GRヤリス)が、2番手の大竹に0.2秒差ながらも首位で初日を折り返している。6.5秒差の3番手には、SS6でベストをマークした石川昌平/大倉瞳(GRヤリス)が続く。
僅差の首位に立った内藤は「午後からリズムに乗れるようになってきて、すごく楽しいです。路面の荒れ具合は昨年よりひどいんですが、頑張って走り切った感じですね。ほかの皆さんを見ていると、そこにアドバンテージがあったようで、タイムを詰めることができました」と、納得の表情で振り返った。車両規定に制限のかかるMCCの戦いに専念しながらもクラス2番手につけた大竹は「2ループ目は轍がすごすぎて、だいぶペースダウンしました。それでも最初のループの段階で(MCCでは)タイム差をつけることができたので、うまくコントロールできましたね」と、冷静にコメントした。
トヨタGR86/スバルBRZによって争われるJN-3クラス。前戦モントレーではエンジントラブルに見舞われた山本悠太/立久井和子(トヨタGR86)が、SS1からSS5まで連続ベストを刻み、上原淳/漆戸あゆみ(スバルBRZ)、エンジンの不調を抱える曽根崇仁/小川由起(GR86)を従えて、ラリーをリードする。SS6は曽根がベストを刻んだものの、SS7は山本が獲り返し、クラス2番手の上原に20.1秒、SS7でコースオフを喫した3番手の曽根に1分10秒9のアドバンテージをつけて初日を終えた。序盤から3番手争いを繰り広げていた山口清司/丸山晃助(トヨタGR86)は、SS6で左リヤタイヤを大破。ステージは走り切ったものの、レグ離脱を余儀なくされた。
この日行われた7SS中5SSでベストタイムをマークした山本は「最初のループは思ったよりも路面が綺麗で、ライバルとの差を築くことができました。2ループ目は比較的轍が荒れていなかったこともあって、クルマにダメージを与えることなくサービスに帰ってくることができましたね。20秒ほどのマージンですが、明日のステージはさらに厳しくなるので、もう少しタイム差がほしかったところです」と、振り返る。山本の先行を許した2番手の上原は「今日の午後は轍や突然のグレーチングに苦しみました。あと、とにかく暑かったです(笑)。山本選手が速かったですね」と、悔しさをのぞかせた。
JN-4クラスは、SS1とSS2でベストタイムを奪い、この時点で2番手に46.6秒ものマージンを築いた藤原友貴/宮本大輝(スズキ・スイフトスポーツ)が独走体制に入るかと思われたが、SS3で痛恨のコースオフ。今季大躍進を見せている優勝候補が、初日の午前にレグ離脱という波乱の幕開けとなった。これでトップに立ったのは、今季初参戦の小倉雅俊/平山真理(ホンダ・シビックtypeR)。選手権リーダーの高橋悟志/箕作裕子(スイフトスポーツ)は、ターボのブーストがかからなくなる症状が頻発し思うようにペースを上げられなかったが、SS4後のサービスでマシンを修復し復調。午後最初のSS5でベストタイムを刻んでトップに立つと、SS7で小倉をかわして2番手に浮上した鮫島大湖/船木佐知子(スイフトスポーツ)に22.9秒差をつけて、初日を走り切った。SS7まで3番手を走行していた小倉は、サービスに戻るリエゾン走行中に車両火災に見舞われ、ラリーリタイア。1分39秒9差の3番手に、筒井克彦/本橋貴司(スイフトスポーツ)が浮上した。
マシンの不調を抱えながらも首位を守った高橋は「まだマシンは完璧に直っていません。ちょっとマシになった程度です。とりあえずトップで戻ってきましたが、走りながらエンジンをかけ直したりもしました。明日はなんとかしたいですね……」と、厳しい状況を説明する。2番手の鮫島は「かなり荒れ模様の初日になりましたね。僕は、昨年のカムイで酷いリタイアを経験していますし、それを考えれば、全然OKです(笑)。タイムがJN-5クラスと同じくらいなので、もう少し高橋選手に近づきたいです」と、笑顔を見せた。
JN-5クラスは、カムイ2連覇中の松倉拓郎/山田真記子(トヨタ・ヤリス)が序盤から快走。SS4とSS6以外のステージをベストタイムで並べ、2番手の河本拓哉/有川大輔(マツダ・デミオ15MB)に1分00秒6もの大差をつけた。今回からマシンに新しいショックアブソーバーを導入した小川剛/山本祐也(ヤリス)が、2分11秒9差の3番手。ベテランの三苫和義/遠藤彰(ホンダ・フィット)が2分44秒2差の4番手で続く。
ヤリスで走る初グラベルながらも、得意の路面で圧倒的な強さを披露した松倉は「午後は轍をケアしながら走って、マシンにダメージを負うことなく戻ってくることができました。足まわりに関しては、今回初めて導入するセットが決まってなかったんですが、午後は改善されて、良い感じになってきました」と、冷静に分析。2番手の河本は「思ったよりもいいペースで走れましたし、無事に帰ってくることができました。状態は悪くないので、最終日もこのままのペースを維持したいです」と、コメントしている。
今シーズンから従来のJN-6に代わり「駆動方式を問わず、気筒容積が2500cc以下のAE車両」という新たな環境対応クラスへと変更されたJN-Xクラス。ポイントリーダーの天野智之/井上裕紀子は、マシンを開幕からのターマック4戦で使用していたトヨタRAV4 PHEVから、昨年まで使っていたトヨタ・アクアに戻してグラベルイベントに挑む。天野は、この日の全7SSを制し、2番手につける海老原孝敬/蔭山恵(ホンダCR-Z)に、初日だけで2分26秒9もの大差をつけて折り返した。海老原から7.8秒差の3番手には、清水和夫/山本磨美(トヨタ・ヤリス)がつけている。
乗り慣れたアクアでスピードを見せつけた天野は「午後は路面が荒れていましたが、すべてのステージでタイムを上げることができました。轍をうまく使えていたようです。マシンにダメージを与えないよう、注意して走りました。マージンがずいぶんあるので、明日は壊さないように、できればレグポイントもほしいので、それなりのペースで走りたいです」と、余裕のコメント。清水と接戦を繰り広げた海老原は「パワーがないので、天野選手には離されてしまいました。それでも、林道で清水選手をリードすることができました」と、振り返った。