トヨタGRヤリスAP4を走らせるニール・ベイツ・モータースポーツのワークショップを探訪 – RALLYPLUS.NET ラリープラス

トヨタGRヤリスAP4を走らせるニール・ベイツ・モータースポーツのワークショップを探訪

©Matt Jelonek

2021年からオーストラリアラリー選手権にトヨタGRヤリスAP4を投入している、トヨタ・ガズーレーシング・オーストラリア(TGRA)。チームを運営するのは、オーストラリアを代表とするラリードライバー、ニール・ベイツが率いるニール・ベイツ・モータースポーツだ。オーストラリアの首都キャンベラに構えるワークショップを、西オーストラリア在住でRALLY PLUS誌やホゲホゲ日記でもおなじみのカメラマン、マット・ジェロネックが訪ねた。


ニール・ベイツ・モータースポーツ(NBM)は、ニール・ベイツが1990年代の序盤、キャンベラを拠点に立ち上げたチームだ。オーストラリアラリー選手権(ARC)にトヨタ・セリカGT-FOURを投入して選手権を席巻し、その後、カローラWRCも走らせた経験も持っている。

それだけでなく、NBMはラリー博物館と呼べるほど、数々のラリーカーが展示されている。壁には、WRCラリーオーストラリアが西オーストラリア州のパースで開催されていた1990年代にニール・ベイツが参戦していた様子や、2000年代に入ってWRCの拠点がニューサウスウェールズ州コフスハーバーに移ってからはAP4マシンで参戦していた際の写真が並ぶ。

Matt Jelonek

展示されているラリーカーは、トヨタ・セリカ・ターボ4WD(ST185)、セリカGT-FOUR(ST205)、カローラS2000、そしてクラシックなセリカRA40と、いずれも個性的で思い出深い4台だ。コレクションのなかでも、2007年にキャンベラのワークショップでニール・ベイツが製作した4台のFIAスーパー2000仕様のカローラS2000のうちの1台は、まさに家族の歴史に残るマシンと言える。ニール・ベイツ/カロル・テイラーが2008年、このマシンでこのコンビによる最後の選手権を戦った後、長男のハリーが16年、17年にドライブし、初めてのオーストラリア選手権での勝利をマークしたのだ。

ハリーは「このマシンでラリーのことやドライビングの多くを学んだ。この時の経験は、これまでの自分のキャリアにも役立っている」と語る。また次男のルイスも2018年に同じマシンで参戦を経験しており、家族を繋ぐ1台となっている。

セリカ・ターボ4WD(ST185)では、ニール・ベイツ/カロル・テイラーというオーストラリアを代表する名クルーにより、1993年、94年にオーストラリアタイトルを獲得した。このコンビで選手権に挑んだのはこの時が初めてで、ベイツとトヨタの関係が始まったのもこの時からだった。ニールは、その思い出深いこのセリカを数年前に買い取り、レストアをしてオリジナルのコンディションに戻した。

Matt Jelonek

オリジナルの黄色いカラーリングのセリカGT-FOUR(ST205)では95年に、オーストラリア選手権とタスマニア島で開催される同国の名門ターマックイベント、タルガ・タスマニアを制した。その後、使用されずにいたがいつでも参戦できる状態になっていた。現在は、ターマックスペックでほぼオリジナルのコンディションにレストアされており、ニールは近い将来、ラインハルト・クラインが主催するドイツのアイフェル・ラリー、フィンランドのミッドナイトサンラリー、ラーティ・ヒストリックと、ヒストリックイベント3戦への参戦を計画しているという。

Matt Jelonek

ニールは現役を引退した後、クラシックカーを製作して参戦を続けることを望んだ。ヒストリックラリーに参戦することを目指して、2011年にはセリカRA40を入手してラリーマシンを製作。2013年、2014年には南半球最大級のラリーイベント、ニュージーランドのオタゴラリーにテイラーと参戦し、優勝を飾っている。「世界で最も速く、最も人気のあるクルマ、エスコートMkIIのようなものを作ること」だとニールは目標を語る。

Matt Jelonek

一方、現在ARCを戦うハリーは「このワークショップには長い歴史がある。自分も、選手権を制したヤリスAP4で歴史を紡いでいきたい」と目標を語る。

NBMは現在、ハリーとルイスがドライバーとしてARCに参戦しタイトルを獲得する一方でワークショップの経営にも関わるなど、NMBにとって家族の絆は成功を握る鍵となっている。2001年には元の社屋のすぐそばに新しいワークショップを立ち上げ、ハリーとルイスはNBMのラリー活動で表と裏の両面で活躍している。

家族経営のNBMでは、家族のそれぞれがラリーの会期中だけでなくその前後でも重要な役目を担う。ワンメイクのトヨタ86シリーズを含めラリーの前後にマシンをメンテナンスするのは、最年少のルイス。兄のハリーは、ビジネスの商業面、ロジスティック面を担当し、航空券や宿泊の手配、スポンサーとの契約なども行う。ステアリングを握っていない時間は、電話をかけているか事務所で作業を行っている。

Matt Jelonek

弟のルイスと違い、ハリーはメカニカルな知識はそれほど持ち合わせていない。
「ラッキーにも、自分のコ・ドライバー、ジョン(マッカーシー)はメカニカルなことに強くて、ラリーで何度も窮地を救ってくれた」とハリーは説明する。
「自分は何年もかけて、サスペンションやシャシーのセッティングについて学んだ。また、前行型のヤリスAP4と今のGRヤリスAP4に関わるなかで、自分自身のドライビングもたくさん模索していかなくてはならなかった。今のレベルに達するまでに、いろいろなことを行ってきた」

Matt Jelonek

ハリーとルイスは2歳違いだが、ラリーキャリアを始めたのはいずれも18歳の時だった。
「ラリー中はお互いに助け合っている。レッキの時も話し合うよ」とルイス。
「マシンのセッティングは昨年はそれぞれに違ったが、今はハリーのセッティングにかなり近いセッティングで走っている。より速く走ろうと思ったら、ラリーの間に必然的にハリーのセッティングに近づいていったんだ」

多忙を極めるワークショップは6人のメンバーで活動しており、休む暇がない。ポリカーボネートの部品からパネルまで、すべて社内で作っているのだとニールは説明する。
「すべてをここで行っている。組み立て、シェルの作業、クロスメンバー、配線、パネル、すべて社内で行っている」

Matt Jelonek

Matt Jelonek

NBMは2018年11月に開催されたWRCラリーオーストラリアに、トヨタ・ガズーレーシング・オーストラリアとしてトヨタ・ヤリスAP4をエントリー。翌2019年からARCへの参戦を開始したが、このマシンでの初戦を迎えるまでの準備は突貫作業だったという。
「量産車の状態で到着したので、それをバラバラにするところから始まった。標準パーツはほとんど使用せず、使っているのはシェルだけ。エンジンはオリジナルだが、強化コンポーネンツで改良した」とルイスは説明する。
「ヤリスAP4の当初のエンジンはターボがなかったので追加しなくてはならなかった。このマシンにはいろいろと問題があって、参戦中はトリッキーだった。いつもラリーの現場で開発を行っていた。テストでは完璧だったのに、ラリーが始まったら最初のステージでトラブルが発生したこともあったよ」

その様子についてニールも「マシンのペースは最初からとてもよかった。ただ、特定の問題があった。それを解決するのに少し時間がかかった」と説明する。
「インジェクターは7バールと問題なかったが、4.5バールで走っていたのにブーストがかかってしまう。インジェクターの上限が上がってしまっていたんだ。ステージをスタートしてしばらくすると、7バールで安定して走ることができなくなった。燃圧の問題も続いていた。問題はエンジンの一部だけで、ほかは問題なかった」

Matt Jelonek

NBMは2021年にAP4仕様のトヨタGRヤリスを投入したが、このマシンで初めて採用した手法が、3Dプリンターの使用だ。フロントのトヨタのバッジから、ミラー、ボンネット開口部などは、社内で3Dプリンターを使用して製作した。地元キャンベラで開催された2022年シーズンのARC開幕戦ナショナルキャピタルラリーでは、全13SS中、10ステージを制したこのGRヤリスAP4は、今年も選手権を席巻しそうだ。同じように製作されたハリーとルイス、2台のGRヤリスAP4は、いずれもアップグレードは行われていない。
「まだ新しいマシンなので、継続的に開発を行い、テストやラリーを行うたびにいいところを見つけ、常に改良を加えている。その改良も、特に大きなものではない。シーズンのこの先はメインになるのはシャシーのセッティングだね」とハリーは説明する。
「GRヤリスAP4の3気筒エンジンは、トルクの面で非常に強い。反応が素晴らしく、これはラリーで非常に重要な点だ。もちろん、まだ開発途上だしパッケージとして改善するために自分たちも取り組みを続けているが、このエンジンはスタートからとてもイイ感じだったよ」

Matt Jelonek

以前の4気筒エンジンとこの新しい3気筒エンジンを比較してみると、ハリーとルイスのふたりからは、さらにフィードバックが得られた。

「以前のヤリスAP4には、4気筒の2ZZエンジンを使っていた。このエンジンはパワーはかなりいいのだが、ライバルたちに比べていつもトルクが劣っていた。新型GRヤリスAP4に搭載されたこの3気筒エンジンは、低域がかなり強くなっている。この3気筒は信頼性も高くなったので、メンテナンスも少なく済んでいる」

「エンジンに関してはかなりの違いがある。4気筒はパワーもレブも高かったが、3気筒はトルク重視でレブはそれほど上がらない。ラリーではこれはアドバンテージになり得る。タイトコーナーの出口では、低い回転数でより太いトルクが得られるんだからね。これは、4気筒エンジンのターボリストリクターが34mm(AP4規定による)だったことにもよる。3気筒エンジンでは、僕らはラリー2規定を遵守することを選んだので、リストリクターは32mmなんだ」

取材中、GRヤリスのラリー2マシンについても質問をしてみたが、ハリーは「TGRヨーロッパがエンジンサプライヤーなので、協力関係は持っている。我々からは、エンジンをさらに改善させるためにデータやフィードバックを届けている。でも、ラリー2マシンにそのものに関しては現状、何も関わっていないんだ」と語った。

ワークショップの片隅には、パラグアイへの輸送に向けて準備中だというGRヤリスのシェルがあった。このマシンは、ZF製5速ギヤボックスを搭載したR5仕様だという。ベイツ兄弟が参戦に使用しているGRヤリスAP4は、より信頼性が高くコストパフォーマンスに優れたZF製6速ギアボックスを採用しており、FIA地方選手権ではASN車両のカテゴリーに入る。

Matt Jelonek

日本のラリーファン同様、どこの国でも、TGRヨーロッパがGRヤリス・ラリー2の計画を立ててくれていることを願う気持ちに変わりはないようだ。
(Matt Jelonek)



ワールドラリーカレンダー好評発売中!!