本誌連動企画:エンジニアに聞くトヨタ・ヤリスWRCの現在地 TMG青木徳生 編 – ページ 2 – RALLYPLUS.NET ラリープラス

本誌連動企画:エンジニアに聞くトヨタ・ヤリスWRCの現在地 TMG青木徳生 編

©Naoki Kobayashi

「来年は勝つつもりで行って勝ちたい」

――マシンはどれくらいの仕上がりですか。
「クルマの性能という意味ではコメントする立場にありませんが、エンジンの視点でいうと、『OK』というだけの自信があるかというと、まだないです。サーキットならラップタイムや加速を比べることができますけど、そういう比較がない中で準備をしてきて、意外と外れてなかったな、ということは分かりました」

――エンジンだけの比較は難しいでしょうが、他のライバルと比べてどうですか。
「ここ何年間トップで活躍されてるグループの皆さんがいるとすると、そのグループの中にはなんとか入れたかな、というところです」

TOYOTA

――気になるチームはありますか。
「できたら(他のチームの)ボンネットの中の写真を撮ってきてほしいなと思っています(笑)。写真があれば、吸気パイプがどうなってるのか、などいろいろ想像することができます。写真撮影をお願いできないですか。TMGはお金がないのであまり高いと払えませんけど(笑)。ウチのチームは横からみんな撮れる。シトロエンやフォードの人が撮っているんですよね。僕らのところは、チームプレジデントの方針で、あまりカバーしないでみんなに見てもらって、楽しくやろうという方針なのでいいですが、僕らはこの服を着てなかなか近くに写真を撮りにいけないものですから、撮っていただけないかと。すごく興味があります」

――エンジニアの方には興味が尽きないと思います。
「そうなんですよ。エンジンはパワーがありすぎると、開発するなって言われるようなものですから、エンジンには文句が出るくらいの方がいいかなと思っています(笑)」

――ユニットを変えていく方向性のひとつがトルク、それとドライバビリティの強化。年間のスケジュールとして見えてきたということですか。
「馬力が出たとしてもトルクが今より下がったら、絶対載せないと思うんです。もしトルクが今の状態で、馬力がもっと出ました、それはメリットあるとチームが判断したら載せるかもしれないですが、エンジンはそこまでまだ詰まってないと思うんです。いまの段階だと、まだトルクも馬力も頑張って出せるんじゃないか、というところです。どちらかというとトルク重視になりますが、そのために馬力が下がるというのは、おそらくダメですね」

――次はトルクですか。
「トルクと馬力、両方あげていきます」

――ラリーの難しさとは。
「一発勝負ですよね、本当に。たった1回通るだけなんです。そこを全開で走れというのは、とんでもない話ですよね。若い時にその道に入っていたら、人生が変わっていたのではないかと思います。結構おもしろい。でも仕事でラリーにいくと全然おもしろくないですね。クルマを走ってるところは見られないし。ちゃんと見に行きたいなと思いますね」

――今回は何人体制ですか。
「ポルトガル以降の準備もあって、追加の人も入れています。2台走らせるときは基本的には6人。今回はそれにプラス2人です。モンテカルロは7人でした」

――3台になった場合の負担はどうでしょう。
「まあエンジンの台数は、少なくともクルマに載せる分とスペアが必要です。だから2台プラスになります。あとは予算が大丈夫かなと(笑)」

――データのフィードバックは増えますね。
「そうですね。ドライバーの運転のしかたも違いますので。いかにそれぞれのドライバーが走りやすくなるか、ということも課題になります。(3台目のドライバーは)おそらく若くてピーキーな運転をされるんじゃないかなと想像しています」

――ドライバーによって乗り方がずいぶん違うんじゃないかと。
「僕たちはエンジンの使い方を見ますが、だいぶ違いますね。いいとか悪いとかではありません」

TOYOTA

――ドライバーのスタイルによって。
「はい。名前を挙げると差し障りがあるので控えますが、エンジンをぐーっと踏み込んでいってトルクに乗ってクルマをコントロールするタイプの人。エンジンのレスポンスを使いながら、ホイールスピンを使いながらコーナーを出て行く人。大きな2つの違いがそこかなと思います」

――他のドライバーの走りを見ることはありますか。
「イベント後に、ビデオやインターネットの動画では見ています。(走り方は)違いますね。去年は何回か現場にも見に行きましたが、ステージの1つのコーナーで見ていても、トップの3、4台でも違いますね。乗り方も違う。一発勝負のなかでどうやってやっていくか。サーキットのレースとはぜんぜん違うなと」

――クルマの作り方もサーキットレースとは違うようですが。
「そうだと思いますね。最初のテストに行った時に、ほとんどドライバーのフィードバックでセッティングを変えていく。そのあと何分かしてデータが入ってくる。そうこうしているうちに出ていってしまう。データを見ようかな、なんてしてると、『ちょっと来い』って横に乗せられて、ワーっと走って、『分かるか、ノリオ、これだ!』って言われる。「たしかにこれはちょっと変だな」と思う。そういう世界ですね。言ってる意味は分かったんですけど、それをデータだけで見ていたら、ひょっとしたら分からなかったかも、というもので、すごくおもしろい経験でした」

――ニュアンスみたいな部分でしょうか。
「ドライバーのインプットと、それをどうやって理解してあげられるかがすごく大事。データはそれをサポートするためのツールという感じですね」

――テレメトリー的なフィードバックはないということですが。
「レギュレーションが変わればできるかもしれないですけど、だとしたら今のラリーのおもしろみがなくなるかもしれない。おそらくラリーは他のカテゴリーに比べて、技術よりもドライバーメインで彼らが戦う。コースから外れたら、お客さんに押してもらったりしながら、自分たちでクルマを直して帰ってくるわけじゃないですか。そこがラリーのおもしろさ」

――逆にテクニカルを詰めすぎると、同じようなクルマになってしまう。
「それはどうでしょう。ラリーは同じ場所を何回も通り過ぎずに1回通るだけでしょう。サーキットならグリップのシミュレーションもするが、ラリーでは違う。モンテカルロで最終日に雪が降り出した時は、シミュレーションもできないですし。変化する状況に対して機械で調整するっていうよりは、ドライバーが自分で調整しながら走っていくスポーツだと思います」

――エンジニアリングと人間性がちょうどいいバランスになっていると。
「もし25年くらい前のF1がもうちょっとスポーツらしかったら、という感じがするんですよ。ドライバーとエンジニアもそうですけど、経験を活かせる。かといってデータがないわけではなくて、それもきちんとあるという」

Naoki Kobayashi

――話は戻りますが、第2戦の優勝について。想定外でしたか?
「びっくりしました。嬉しかったけど、びっくりでしたね」

――最終日のタイムからすると、本物といえる。
「まあ……それはたしかに……そういう部分も実力の中にあるんだと思います。ただ、それを常に出せる状況にあるかというと、すべてのドライバーが2日目、3日目と、そうではなかったですよね。勝てるんだからOK、というわけではない。まだ、2戦目です。まだまだ良くなる要素はあるのでエンジンはもっとがんばります。たまたま勝てる要素があるとすると、もっとそれを増やせるようなチームの状況だと思います」

――勝って変わったことは。
「そうですね、そのあたりは割と謙虚です。勝てたらみんなハッピー、すごく嬉しい。でも、経験をもっていて、それに基づいて、勝とうと思って勝ったわけでは決してない。今年はしっかりと勉強をして、来年は勝つつもりで行って勝つんだと、その自信がもっとつきました」

――この先、不安や気になることは。
「周囲の期待が高くなって変なプレッシャーがかかるのは、1年目のチームとしては不健康かなと思いますね。きちんと自分たちが成長していく過程で、そういう勝利がポンとあって良かったけど、しっかり中身を詰めていって来年は狙って勝てるようにしようと、そういう感じです」

――うまく回り始めた感じがします。
「そう思います。ある意味プレッシャーもありますが、自分たちはきちんと実力を詰めていく、そういうモチベーションが上がっている。TMGの中にも、ラリーがどうだったのか話をもっと聞きたいという声がある。ラリーから帰るたびにみんなに集まってもらって、こういうふうにうまくいったよとか、こういうトラブルがあったよとか。みんなラリーに興味を持ってくれています」

――自信になった?
「大プラスでした。ただ、自信は自信なんですけど、奢りがないように。自分たちが準備してきたものが決してハズレじゃなかったという、そういう意味での自信です。」


トヨタWRCチームとヤリスWRCにとって初のフルターマックラリーとなるWRC第4戦ツール・ド・コルスは、日本時間の4月7日(金)16:22にSS1をスタートする。

12


RALLY CARS