WRCスウェーデンの舞台裏、鍵を握るスタッド – RALLYPLUS.NET ラリープラス

WRCスウェーデンの舞台裏、鍵を握るスタッド

©Naoki Kobayashi

先週末に開催されたWRCラリースウェーデンは、一面が氷に覆われたシリーズ唯一のフルスノーラリーだ。皮肉にも“暖かな地”を意味するバルムランド地方をベースとするこのラリーでは、氷点下15度にも達するなか、世界のトップラリードライバーたちが、凍てついた森を舞台に戦いを繰り広げた。

Naoki Kobayashi

雪不足が心配されていた今年のラリースウェーデンだが、実際にはほぼ完璧なコンディションに保たれていた。良いコンディションでイベントを迎えられるかどうかは、直近の天候に左右されることになるが、大切なのはその順番だという。まずは大雪が必要。それから気温が上がり、雪が解ける。しかし、解けるのは2日間ほどでいい。そして暖気が南下し、超高速グラベル路を凍りついた湿気が覆う。このような順番で、路面に固い氷の層ができあがる。

理想を言えば、その後冷え込みが続き、2日ほど雪が降ってコースの表面を新雪が覆うと、スノーバンクができる。すると、ドライバーたちはマシンをスノーバンクに押し当てながらコーナーをクリアする。先週末のスウェーデンは、スノーバンクこそなかったものの、氷はふんだんに保たれていた。

Naoki Kobayashi

このようにして形成されたスリッパリーな氷結路を、ドライバーたちは時速180kmで駆け抜けていく。氷に覆われたラリースウェーデンの路面でドライバーがパフォーマンスを見せることができる理由は、計1536本のスタッドにある。

WRカーに装着されるタイヤには、1本あたり384本のタングステン製のチップがついた20mmのスタッドが埋め込まれている。タングステンとはスウェーデン語で「重い岩」を意味する。その名前は、トレッドパターンから突き出る6.5mmのスタッドの強靭さをよく示していると言えよう。しかも、これらのスタッドは手作業でタイヤに埋め込まれる。タイヤエンジニアが何時間もかけて手作業を行ってくれるおかげで、WRCドライバーたちは氷の上で戦うことができるのだ。

実は、スウェーデンのような氷結路面でのグリップは、WRCのなかでもほかのどのラリーよりも高い。スタッドが岩のように固い氷に強烈に食い込み、メカニカルに縦方向のトラクションと横方向のグリップをもたらす。これは、他のどの路面でも再現することはできない。ラリースウェーデンのウイナー、ヤリ−マティ・ラトバラは、スウェーデンでのスタッドの効きについて次のように語っている。

TOYOTA/@World

「様々なイベントがあるが、こんなフィーリングが得られるラリーはほかにはない」とラトバラ。
「正直、マシンから感じれるグリップの強さは信じられないほどだ。厚くて固い氷がある時は、アクセルをベタ踏みできるし、ブレーキもかなり遅らせることができる。ドライのターマックをレーシングタイヤで走っている時以上だ」

「しかし、最高なのは横方向のグリップだ。これはもう本当に面白い。6速全開、時速200km近くでスライドさせる時でも信じられないくらいのグリップを感じる。笑いが止まらないし、世界で最高のフィーリングだよ」



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