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2025年シーズン全日本ラリー選手権第3戦「YUHO Rally 飛鳥 supported by トヨタユナイテッド奈良」が、5月16日(金)~18日(日)にかけて、奈良県天理市を拠点に開催された。トップカテゴリーのJN-1クラスは新井大輝/立久井大輝(シュコダ・ファビアR5)が優勝。2位にヘイキ・コバライネン/北川紗衣(トヨタGRヤリス・ラリー2)、3位に勝田範彦/保井隆宏(GRヤリス・ラリー2)が入った。
■レグ1
昨シーズンまでのラリー丹後に代わるかたちで今年のカレンダーに加わったのは、奈良県天理市を拠点とするラリー飛鳥。奈良県で全日本ラリー選手権が開催されるのは「1993 ASUKA RALLY」以来、実に32年ぶりとなる。ステージは奈良県中部、奈良盆地の南端エリアを中心に設定され、初日は「Imotouge(5.86km)」、「Takai Memorial(7.18km)」、「Ohmine Pass(9.45km)」の3ステージを午前と午後でリピートする6SS、44.98kmが設定された。
初イベントのレッキを終えた勝田範彦は「ツイスティですが、ショートコーナーが多いので、スピードが乗るような気がしています。ステージ中にクランクを含めた小さな橋がたくさんあるなど、ほかに似ていない独特なキャラクターを持っています。かなり難易度が高いです」と、初走行を前に奈良のステージを警戒する。
ラリーは、5月16日(金)に天理市の市役所でセレモニアルスタートを実施し、翌17日から本格的なステージが幕を上げた。初日は予報どおり朝から降雨があり、コンディションはウエット。SS1で幸先よく一番時計を刻んだのは、新井大輝/立久井大輝(シュコダ・ファビアR5)だった。ヘイキ・コバライネン/北川紗衣(GRヤリス・ラリー2)に4.1秒、奴田原文雄/東駿吾(GRヤリス・ラリー2)に4.2秒、勝田範彦/保井隆宏(GRヤリス・ラリー2)に6.3秒差をつけてみせる。
新井大輝は続くSS2でもコバライネンに14.3秒差、さらにSS3でもコバライネンに9.1秒差をつけ、会心の連続ベストタイムをマーク。午前中のセクションを終えて、2番手のコバライネンに27.5秒ものアドバンテージを手にした。38.1秒差の3番手に奴田原、45.2秒差の4番手に勝田。シュコダ・ファビアR5での3戦目を迎えた鎌田卓麻/松本優一は、SS1のスタートから3km地点で壁にマシンをヒットして左前のステアリングアームを曲げてしまい、1分31秒3差の5番手と出遅れた。
1分35秒6差の6番手に新井敏弘/小坂典嵩(スバルWRX VBH)。SS2のスタートから500m地点で右リヤをヒットした福永修/齊田美早子(シュコダ・ファビアRSラリー2)は、首位から1分55秒1差の7番手と上位争いから大きく引き離されている。
サービスを挟んだ午後のセクション、依然としてコンディションはウエットのまま。「午前中でタイム差を確保できたので、危ない箇所はマージンを取った」と語る新井大輝だったが、SS4、SS5、SS6と午後も3本をベストで揃える。終わってみれば、この日すべてのSSを制して、2番手につけるコバライネンとの差を39.2秒差に広げて初日を終えた。
SS5では、午後のループから3番時計を並べている勝田が奴田原をかわし、クラス3番手に浮上。この日を終えて首位から1分9秒差につける勝田だが、奴田原との差は7.7秒しかなく、最終日も熾烈な表彰台争いが繰り広げられることになりそうだ。2分41秒差の4番手は、サービスで足まわりを修復した鎌田。一方、6番手につけていた新井敏弘は、SS5を走り終えた後にメカニカルトラブルによりストップ。これにより、2分53秒差の6番手に福永が浮上している。
大きなトラブルなく初日を終えた新井大輝は「結果的にベストタイムが揃っただけで、狙っていたわけではありません。久しぶりにちゃんと走れた気がします。午後の路面コンディションは、午前中にインカットされたことで少し滑りやすくなっていました。それでも総じて乾き始めていたので、グリップは高くなっていましたね」と、落ち着いた様子で振り返った。
新井大輝の先行を許すことになったコバライネンは「GRヤリス・ラリー2では、まだ自信を持って攻めることができてないんだ。ステージが少しドライアップしたことでグリップレベルは少し上がったけど、まだ苦戦している。クルマに関しては完璧な状況にはない。残念な1日だったけど、仕方がない。明日はラリーを完走することだけを考えて走るよ」と、肩を落とした。
JN-2クラスは、SS1でベストタイムをマークした山田啓介/藤井俊樹(トヨタGRヤリス)が、SS2の序盤で石を踏んでパンク。SS2を制してトップに立った小泉敏志/村山朋香(GRヤリス)も、SS3の2km地点にある左コーナーの出口ではらんで、アウト側にヒット。その影響でブーストがかからなくなってしまい順位を下げるという、大荒れの幕開けとなった。これで、SS3で一番時計をマークした貝原聖也/西﨑佳代子(GRヤリス)がトップに浮上。貝原はこの日を締めくくるSS6で左側の前後タイヤがリム落ちしてタイムを落としたものの、2番手の内藤学武/大高徹也(GRヤリス)に31.8秒差をつけての首位で初日を折り返した。後方ではSS4からSS6まで3連続ベストを刻んだ山田が猛追。45.7秒差の3番手まで順位を戻している。
優勝候補が相次いで脱落するなか、自身のピンチを乗り切った貝原は「SS6で左右がリム落ちした後、残りの5kmはかなり厳しかったです。内藤選手に少し詰められてしまいましたが、最終日はこのマージンを使って走りたいと考えています。自分たちにミスがないSSでは山田選手と変わらないペースで走れていることは収穫ですし、今回は勝ち切りたいです」と、最終日に向けた意気込みを語る。2番手の内藤は「午前中よりも攻めたことで危ない場面もあったんですが、とりあえず無事に帰ってこられて良かったです。今回はこれで十分です。後ろから来る山田選手が気になりますが、ちょっと抑えるのは難しそうなので、足掻くくらいにしておこうと思います(笑)」と、コメントしている。
トヨタGR86/スバルBRZによって争われるJN-3クラスは、ドライバーとして全日本ラリー選手権出走3戦目となる窪啓嗣/城野真輝(トヨタGR86)がSS1とSS2で連続ベストをたたき出し、この2SSだけで2番手以降を19秒以上も引き離すスピードを見せた。しかし、快走を続けていた窪がSS3で痛恨のコースオフを喫してしまう。窪のリタイアによりトップに立った山本悠太/立久井和子(GR86)は、中間サービスでセットアップを変更したことでSS4とSS6でベストを記録。2番手につける曽根崇仁/小川由起(GR86)に22.5秒差をつけて初日を終えた。42.3秒差の3番手に下口紘輝/小林一貴(GR86)、1分41秒7差の4番手に山口清司/丸山晃助(GR86)がつけている。
後半のセクションでスピードを取り戻した山本は「1ループ目はセットアップを外してしまいましたが、午後は変更が功を奏しました。最終日は天気がどうなるかですかね。8kmのSSはリズムを取るのが難しいとレッキで感じました。曽根選手とタイム差も大きくないですし、まくられないように気をつけます」と、慎重にコメント。SS1でエンジンストールに見舞われた曽根は「午後はストールの問題は発生しませんでした。SS2とSS4の『Takai Memorial』が苦手なのか、タイムを出せませんでしたね。それ以外のステージは、午後もいい走りができたと思います。距離は短いですが、最後まで諦めずに狙っていきます」と、最終日の逆転を狙う。
JN-4クラスは、今シーズンから全日本ラリー選手権参戦を開始し今回が2戦目となる、若手の藤原友貴/宮本大輝(スズキ・スイフトスポーツ)が、SS1からSS3まで3連続ベストタイムをマーク。午前中の3本だけで、2番手の高橋悟志/箕作裕子(スイフトスポーツ)を1分以上も引き離した。中間サービスでセットアップを変更した高橋は、SS4でベストを刻んで一矢報いたものの、藤原がSS5とSS6でベストを獲り返し、初日の6SSを終えて高橋との差は1分16秒4に拡大した。序盤、高橋から僅差の3番手につけていた筒井克彦/本橋貴司(スイフトスポーツ)は、SS3後のリエゾンでフロントのハブボルトが折れて、悔しいレグ離脱。これで鶴岡雄次/山岸典将(スズキ・スイフトスポーツ)が3番手に順位を上げている。
6SS中、5つのSSを制した藤原は「午前だけで1分ほど高橋選手を離しましたが、午後は巻き返してくると考えていたので、しっかりと気持ちを引き締めて走りました。プッシュするところはプッシュするつもりで、フロントにニュータイヤを入れて、相手が頑張るところは自分はもっと頑張りました。最終日、高橋選手がどんな手札を切ってくるかわかりませんし、まだセーフティリードではないと考えています」と、ベテランの高橋を警戒する。対する高橋は「少しはタイム差を詰めましたね。これから明日の作戦を考えて、トップに立てるように狙っていきます」と、最終日での挽回を宣言した。
JN-5クラスは、現チャンピオンの松倉拓郎/山田真記子(トヨタ・ヤリス)が今シーズン初登場。松倉はSS1で一番時計をマークしてトップに立つと、SS2以外の全ステージを制し、2番手の河本拓哉/有川大輔(マツダ・デミオ15MB)に16.8秒差をつけて初日を終えた。2分10秒4差の3番手に中溝悠太/佐々木裕一(ヤリス)、3分29秒3差の4番手に島根剛/粕川凌(ヤリス)がつけている。
ターマックでもスピードを発揮した松倉は「クルマはシャキっとしていて、いい感じです。午前中は燃料系のトラブルがありましたが、午後は順調にいい感じで走ることができました。しっかりと首位をキープすることができましたし、最終日も無理をせずにいきたいです。河本選手も速いので、気が抜けないです」と、河本を警戒する。河本は「頑張ったんですが、なかなかハードな展開になりました。午後は少しずつグリップレベルが上がってきていましたし、明日はドライコンディションとなりそうなので頑張ります」と、冷静にコメントした。
今シーズンから従来のJN-6に代わり「駆動方式を問わず、気筒容積が2500cc以下のAE車両」という新たな環境対応クラスへと変更されたJN-Xクラス。6SS中、5つのステージベストを並べた天野智之/井上裕紀子(トヨタRAV4 PHEV)が、清水和夫/山本磨美(トヨタ・ヤリス)に1分26秒1差をつけて初日をトップで折り返した。今回から、新たにホンダCR-Zを導入した海老原孝敬/蔭山 恵が、2分11秒9差の3番手でこの日を折り返している。
順調にトップで折り返した天野は「コンディションが悪く、クルマを壊さないよう走るのが鍵になりましたね。今日のステージでは、バッテリーが最後まで持ってくれています。アシストはどうなっているか分かりませんが、常に元気に走ってくれました。PHEVはラリーに向いてるかもしれません」と、RAV4 PHEVのアドバンテージを挙げた。天野の独走を許してしまった清水は「路面が渇き始めてくると、天野選手が速くなってしまって全然追いつけませんでした。タイム差が開いているので、最終日は自分の課題を炙り出すようなトライをしようと考えています」と、悔しさをのぞかせた。