WRCモンツァ:イングラシア「これがWRCの精神だ」イベント後記者会見 – RALLYPLUS.NET ラリープラス

WRCモンツァ:イングラシア「これがWRCの精神だ」イベント後記者会見

©Toyota Gazoo Racing WRT

WRCモンツァのフィニッシュ後に行われたイベントカンファレンスの内容(抜粋)。15年間、セバスチャン・オジエのコ・ドライバーを務めてきたジュリアン・イングラシア。8度目のタイトル獲得を勝利で飾った最後のラリーのポディウムに、同じ時代にキャリアをともに過ごし、リスペクトをもって戦い合った仲間が揃った喜びを誇らしげに語った。

●WRCイベント後記者会見 出席者
1位、ドライバーズ王者:セバスチャン・オジエ=SO(トヨタ・ガズーレーシングWRT)
1位、コ・ドライバーズ王者:ジュリアン・イングラシア=JI(トヨタ・ガズーレーシングWRT)
2位:エルフィン・エバンス=EE(トヨタ・ガズーレーシングWRT)
3位:ダニ・ソルド=DS(ヒュンダイ・シェル・モビスWRT)
マニュファクチャラーズ王者:ヤリ‐マティ・ラトバラ=J-MLAA(トヨタ・ガズーレーシングWRT、チーム代表)

Q:セバスチャン、モンツァでの勝利と8度目の世界タイトル獲得おめでとう。今の気分は
SO:フィニッシュラインを越えた時は、花火のように感情が沸き起こった感じだ。このタイトルを獲得できて、このうえないほどハッピー。この段階でラリーがどうなったのか、よく分かっていなかった。カイ(リンドストローム)が無線で言っていたかもしれない。メッセージをもらって、ジュリアンと少し話して、選手権のメディアで知った。あのステージでは選手権を勝つために十分な走りをしたことは分かっていたが、ラリーを勝ったかどうかは分からなかった。ジュリアンがどう思っているか分からないけど、これで本当に終わりなのだというのはすごく妙な気分。15年前に知り合った時に夢を見た以上の成果を挙げることができた。このようなシナリオほど、いい終わり方はない。ジュリアンとの思い出に、もうひとつ忘れ難いものを加えることができた。今の気分を表すのは難しい。空っぽのような感じもする。プレッシャー、注目、疑問、期待、などなど。達成できたことは素晴らしいが、その後は少し空っぽな気持ちにもなる。独特な1日だったが、この成功を評価するにはもう少し時間がかかるかな。

Q:今日と、週末を通してのエルフィンとの素晴らしいバトルについて。今日はどんな気分だったか。いくつかミスもあったようだが
SO:完璧なラインだったが、完璧すぎたとも言えるかな。とても強く戦えた週末だったと思う。マシンもコントロールできていた。でも、特にここのサーキットでは、何かに軽くヒットしてしまいやすい。それが自分たちにも起きた。ラッキーにも何かに引っかけただけだった。あと1m近かったら、少なくともパンクかそれ以上のことが起きていただろう。このスポーツで成功するには運も味方につけなくてはならない。誰にでもいつかは起こることだ。スペインでエルフィンと話をしていた。彼もそんな場面があった。キャリアの中で、何も間違ったことはしていないのに被害が大きくなってしまったと感じることがあった。そんな時もあるんだ。この週末は、強いパフォーマンスを出せていた。簡単にできることではない。一番大きなミスは、エルフィンとバトルでフルアタックのモードに入ってしまったことだろう。彼には簡単に勝たせないようにする必要があった。それに、ヒュンダイ勢もそう離れてはいなかった。彼らは強いからね。少し手をゆるめれば、あっという間に4位、5位にまで落ちる危険ゾーンに近づいてしまう。そうなれば、パワーステージではタイトルを決めるためにポイントを獲らなくてはならないというプレッシャーを抱えることになってしまう。でも、この週末はマシンのフィーリングはよかったし、いいリズムをキープできた。エルフィンも、今日の午前はミスがあった。これで自分たちがラリーに勝てる余裕が少しできたし、ジュリアンとの冒険を最高の形で締めくくることができた。

Q:ジュリアンには敬意を表してきていた。素晴らしい話だし、プロのコンビとして一緒に組んできた。彼がいなかったら、状況は違っていただろうか
SO:考えるまでもない。寂しくなるよ。間違いない。何年もコンビとして経験を積み、当たり前のように息が合った仕事を何度もしてきた。基本的に、お互いを理解するために深く話し合うことは僕らには必要なかった。自分のキャリアの中で、コ・ドライバー変更を考えなくてはならない理由は存在しなかった。僕らは、同じターゲット、同じコミットを持っていた。シンプルにそうだったし、彼に何かしてくれとプッシュする必要もなかった。最初から共通のミッションを持っていた。彼のノートの読み方が自分の好みだった。これが一番のプライオリティだ。だから、僕らはこのラリーで、ステージで速さを保っていられる。いかに状況を整えるかですべてが決まると言ってもいいが、それ以上にジュリアンの存在は特別だった。彼は時々、自分に閉じこもって周りの手が届かないように感じる時がある。完全に集中しているのだが、それが彼が自分の仕事をするやり方なんだ。キャリアの中で一度だけ、最近ポッドキャストでこの話を聞いたかもしれないが、あるチームが僕らを離そうとしたことがあった。自分がラリーを始めた頃は、経験が豊富なコ・ドライバーに乗ってもらった方がいい時もあるという考え方があった。幸い、この時から自分は少し頑固だったので、断ることができた。ジュリアンと続けていきたいと思った。キャリアのその時点で自分はトップレベルに上がる伸びしろがあることを証明しなくてはならなかったし、自分の立場や将来にとってリスクもあった。ほとんどのドライバーがこの世界に入ってきた時は、自分の立場を失うことが怖くてなんでもかんでもイエスと言ってしまう。自分はあの時点で、ジュリアンとやれると言えるほどの強さがあった。今、それが正しい判断だったと言えるよ。

Toyota Gazoo Racing WRT

Q:ジュリアン、コ・ドライバーのシートに座るのはこれが最後だと話してきた。セブとの最高のキャリアで、8度目のタイトルを獲得した。今の気持ちは
JI:セブも言ったように、純粋な気持ちだ。自分たちは、今回のラリーでも一生懸命、真摯に戦うという同じスピリットで臨んだ。自分としては、周囲をシャットダウンして自分の中に何も入ってこないようにして、選手権を確実に勝つことができた。最終ステージでフィニッシュラインを越えた時、僕が涙を止められなかったのをみんなも見たかもしれない。セブと一緒に、この15年間「Wow」と言い続けて、人生をともに歩んできたことが本当にうれしい。とにかくクレイジーだ。純粋に喜びだったし、この喜びやこうした感情の中でキャリアを終えたかった。自分が駆け出しの頃にセブと出会ってから15年間、僕らは本当にいい仕事をしてきた。初めて一緒に作ったペースノート、初めてのポディウム、初めての優勝。もちろん楽な時ばかりではなかった。いつも必死に努力して、トップに登り詰めるというターゲットを決して忘れなかった。トップに上がってからは、その位置に立ち続けることはさらにハードで難しくなった。ミッションは完了したよ……。

Q:通算54勝、様々なマニュファクチャラーでタイトルを獲得してきた。まさに冒険だったか
JI:間違いなくそうだね。今日、ポディウムに上がった人はみんな、ずっと一緒にキャリアを過ごしてきた仲間。この人たちに囲まれてフィニッシュできるなんて、最高だよ。僕らはいつでも、素晴らしい精神で戦ってきた。みんなに感謝したい。これこそ、WRCの精神だ。みんな、困難な状況に直面していることは分かっているが、それでもお互いをリスペクトしている。これが、自分のやりたかったスポーツなんだ。

Toyota Gazoo Racing WRT

Q:エルフィン、セブとの信じられないようなバトルの末に2位フィニッシュ。この戦いはどのような感じだったか
EE:ほとんどがとても楽しかったが、自分的には少しフラストレーションもあった。いくつかミスをしたし、満足できないセクションもあった。彼ら(オジエとイングラシア)がどんな人たちか、僕らはよく分かっていた。僕らが1インチ詰めれば、彼らは1マイル取り戻す。そんな感じだった。素晴らしい戦いだった。今日のミスは残念だったし、これで勝機を失った。それでも、楽しめた週末だった。

Q:素晴らしいペースも出していた。スタート前、タイトルは遠い先にあると話していた。この週末の間、そんな気持ちを持っているようには見えなかったが
EE:正直、そうでもなかった。ギリシャの時点ですでに自分は、タイトルは、ほぼ決まったと受け入れた。もちろん、多少はプレッシャーを与えることはできた。でも彼らがそのプレッシャーにうまく対応することも分かっていた。少なくとも楽しかったよ。

Q:今シーズンを振り返ると
EE:悲喜こもごもだね。この選手権ではベストのシーズンで、タイトル争いができてハッピーだった。もし2年前に聞かれていたら、2年連続でタイトル争いをすることになるなんて夢のようだと言っていただろう。そういう意味では、満足していい。そして、もしその渦中にいれば、もっと上を目指したいと思うようになるもの。今の気持ちで、将来に向けてさらに意欲が高まっている。

Q:ダニ、3位おめでとう。ポディウムでシーズンを締めくくれるのはいいものだ。そのことについて、どんな気持ちか
DS:このチャンピオンたちと一緒にポディウムに上がれて、本当にいい気分。ラリーの最初からすごくハイペースになると理解していたし、タイムを出すのが難しかった。でも、3位に入れたのは、ハッピーだよ。

Q:このマシンでの最後のラリー、これから新しい時代を迎える。どんな気分か
DS:このマシンはすごく楽しかった。ドライバーとして、このマシンをドライブできて幸せだった。アメージングなマシンだ。昨日、このマシンでの最後のラリーらしいステージを走れたのは最高だった。ステージ自体も本当によかったからね。今日のサーキットはもっと難しくてほかとは違うが、週末を通してとても楽しめた。

Q:モンテカルロまでの間の予定は
DS:分からないね。新しいマシンでのテストと、いくつか仕事がある。ラリーの後に考えるよ。

Hyundai Motorsport GmbH

Q:ヤリ‐マティ・ラトバラ、チーム代表としての初年に、マニュファクチャラーズ、ドライバーズ、コ・ドライバーズと、トリプルタイトル獲得を達成した。どんな気分か
J-ML:セブが言ったのと同じ感じだ。長いシーズン、タイトルを目指し、それが果たせた時は空っぽな感じになる。すごく安堵するし、空っぽにもなる。自分自身としては面白い状況だし、感慨深くもある。2018年のオーストラリアでトヨタがマニュファクチャラーズタイトルを獲った時、自分はドライバーだった。今、同じタイトルをチーム代表として獲得した。チーム通算9勝と素晴らしいシーズンになり、セブとジュリアン、エルフィンとスコットが選手権で1−2に入った。これ以上ない結果だ。夢に思ったこともないほど、完璧なシーズンだった。ちょっとした逸話を紹介したい。2012年の終わり、僕らがメキシコでフォルクスワーゲンのテストに参加していた時、セブも自分もカーNo.7を希望したので、コイントスで決めることにした。勝ったのは僕で、7番を選んだ。彼が選んだNo.8が、その後、獲得するタイトルの数になるだなんて、その時は思いもしなかったよ……。

Q:一番、学んだことはなんだったか
J-ML:とにかく自分たちのドライバーたちを、よく見ることだ。彼らが何をしているか、どんなところに集中しているか。自分で言うのも少し悲しいが、彼らを見ていると、なぜ自分が世界チャンピオンになれなかったのか今は理解できる。チームとしては、みんなが一丸となって取り組むことができた。みんなが同じ目標を目指していた。自分にとっては新しい世界のようなものだったし、こんなに多くの人が集まるグループを取りまとめるんだからね。同時に、ドライバーがマシンの中でハッピーでベストのパフォーマンスを出せるようにしなくてはならなかった。ドライバーやチームにどんなことを言ってあげられるか、みんなのモチベーションを維持するために適切なことは何か、自分にとっても学びが多かった。

Toyota Gazoo Racing WRT

記者席からの質問
ジェイソン・クレイグ(Crash.net 、英国)
Q:セバスチャン、2022年はモンテカルロに出るつもりがあることは、みんな知っているが、それ以外については(ニュージーランドと、もし英国戦がカレンダーに入ることになれば北アイルランド)?

SO:今日はその質問はしないでほしい。今日は答えることができない。少なくともモンテカルロはかなり確実だが、そこまでだ。まずは、この瞬間を満喫させてほしい。ニュージーランドはいいかもしれない。素晴らしい場所、素晴らしいラリーだ。一度だけ参戦したことがあり、ヤリ(ラトバラ)が2秒差で僕らに競り勝った。キャリアの中で、最もクレイジーな最終ステージのひとつだ。人生には情熱が必要になる時もあるから、少し時間がほしい。

Q:エルフィン、来年はトヨタの新たなリードドライバーになる。このステップアップに向けて、セブからどんなことを学んだか。チーム内でのこの変化に対してアドバイスはあったか
EE:まず、トヨタの中にリーダーというポジションがあるとは考えていない。自分がドライバーとして経験が長いから、みんながそう見なしてチームを牽引するという考えになるのだと思う。でも、このチームがこれだけ強いのは、みんなが同じチャンスを与えられているからだと考えている。これが、チームを前進させているのだと思うし、来年もこのチームが同じ流れで続いていってほしいと思う。カッレとも、うまくやっているしね。EP(エサペッカ・ラッピ)とはあまり一緒に活動をしたことがないが連絡を取ったことがあるし、セブもメンバーとして残るので自分としては何も変わらないし、このチームで仕事するのはハッピーだ。セブからは、彼に負けることやそばにいることで、色々と学んだ。Mスポーツ時代に、真似することもあれば、自分のやり方でやることもあるということを学んだ。彼のように優秀で成功している人が周りにいると、自然と学ぶことができる。

エリック・デュパン(デブラッドブランク、ベルギー)
Q:WRCの歴史の一部になるというのは、どのような感じか
SO:子どもの頃、生まれてくる場所を間違えたと思いながら、満天の星空の下でモンテカルロを眺めていたこの夢を、決して忘れることはできない。お金はなかったし、何もできなかった。そのことを忘れたことはなかったし、自分たちで道を切り開いてラリーのトップに立ち、何年もトップに経ち続けた。この日々のことを、誇りに思う。かけがえのない旅だったし、その上、勝利や様々な記録も残した。キャリアを始めた時に目指していたことだ。でも、その道のりで出会った人々との感動がより重要になっている。今日、ヤリ、ダニ、エルフィンと一緒にここにいられて、うれしいよ。チームメイトだったことがある人ばかりだ。もしかしたら、よりリラックスした状態で戻ってきて、一緒にいろいろなことを楽しむといういい面もあるかもしれない。この冒険と、子どもの頃に夢を与えてくれたラリーの歴史の一部になれたことを誇りに思う。そして、もうひとつ特筆すべきは、今週末のカッレだ。彼はタフなドライバーだと知っている。彼に勝つのは、大変だ。カッレはこの週末、チームプレイに徹した。自分もキャリアの始めのころには、同じようなラリーをたくさん経験した。キャリアの始めで意欲もある人にとっては、難しいことだ。彼は見事に、マニュファクチャラーズタイトルに貢献してくれた。ありがとう、カッレ。この素晴らしいトヨタのチームの一員であることで、彼はすぐに思い切り戦う機会が訪れるし、より楽しめる週末もやってくるだろう。



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