
©Jun Uruno
2025年シーズン全日本ラリー選手権第7戦「久万高原ラリー」は、10月3日(金)~5日(日)にかけて、愛媛県上浮穴郡久万高原町を拠点に開催された。トップカテゴリーのJN-1クラスはヘイキ・コバライネン/北川紗衣(トヨタGRヤリス・ラリー2)が優勝。2位に新井大輝/立久井大輝(シュコダ・ファビアR5)、3位に勝田範彦/保井隆宏(GRヤリス・ラリー2)が入った。なお、JN-4クラスは今回、参加台数が規定に満たなかったためにクラス不成立となった。
■レグ1
北海道を舞台とするグラベル2戦を終え、全日本ラリー選手権は再びターマックを舞台に終盤2戦を戦う。第7戦久万高原ラリーは、昨年までの4月から10月へと時期を移しての開催。サービスパークは例年どおり「ハイランドパークみかわ」に置かれ、SSは初日に54.62km、最終日に55.14km、合計109.76㎞を設定された。初日は「大谷(13.51km)」と「大川嶺(13.80km)」、2本のSSを午前と午後でリピートし、最終日は同じステージを逆方向に走行。昨年同様にシンプルなアイテナリーが採用されている。
コロナ禍の2021年以来となる秋開催となったが、この時期も天候の変化が激しく、タイヤ選択が勝負の鍵となる可能性が高い。また、尾根づたいに設定された「大川嶺」は標高1400m近くを走行するため、エンジンパワーの低下や、下り区間でのブレーキの酷使など、マシンに大きな負荷が掛かることになる。
4日土曜日は朝から雲が広がり、時折小雨が降るという変わりやすい天気。路面も、ウエット〜ハーフウエットだが、一部はドライが混在する難しいコンディションとなった。朝、恒例となった久万高原町役場でのセレモニアルスタート実施し、クルーはステージへと向う。ラリー北海道後にインタークーラーの損傷が発覚したという新井大輝は、ラリージャパンを含めた終盤3戦に向けてパーツを交換。「とりあえずマシンに大きな不安のない状況でスタートに立てました」と、笑顔を見せた。
SS1はスタートの段階で雨が止んでおり、少しずつ乾きはじめた路面をドライタイヤで走ったコバライネンが一番時計。ウエット4本を選んだ新井大輝に10.6秒、奴田原文雄/東駿吾(GRヤリス・ラリー2)に19.6秒、鎌田卓麻/松本優一(ファビアR5)に21.0秒、勝田に21.0秒もの差つけた。
滑りやすいコンディションとなったSS2は、新井大輝がコバライネンに2.2秒差のSSベストを刻み、その差を8.4秒に縮める。8.0秒差のSS3番手タイムでまとめた勝田が、奴田原と鎌田をかわして、首位から27.0秒差の3番手に浮上。29.5秒差の4番手に奴田原、31.7秒差の5番手に鎌田のオーダーで続く。
サービスを挟んだ午後のセクション、路面はさらに乾いていく状況。SS3は午前中と同様にコバライネンが新井大輝に0.8秒差のSSベスト。SS4は新井大輝がコバライネンを7.0秒差も引き離す会心のSSベストタイムをたたき出し、その差を一気に2.2秒差にまで削ってみせた。
1分17秒4差の3番手に勝田、1分31秒5差の4番手はSS4で奴田原をパスした鎌田。1分33秒4差の5番手に奴田原、午後のセクションはコバライネンと新井大輝に続くSS3番手タイムを揃えた福永修/齊田美早子(シュコダ・ファビアRSラリー2)が、1分43秒3差の6番手につけている。
結果的にオープニングステージの貯金で首位の座を守ったコバライネンだが、「午後はあまり良い走りができなかった。今朝はドライタイヤをチョイスしたことで、大きなタイム差を築くことができたよ。でも、午後はヒロキさんも同じタイヤを履いたら速くなった。SS4は悪くない走りができたと思ったのに、明らかにスピードが足りていない。何かトライする必要があるけど、何を変更すべきか分からない」と、マシンの状況に納得していない様子だ。
午後、コバライネンを射程にとらえた新井大輝は「午後はできれば4本ドライタイヤが良かったんですが、フロントだけドライにしました。ギャンブルでしたが、2秒差まで縮められて良かったです。ヘイキ(コバライネン)さんに、10秒以上離されてしまうと、プレッシャーのないコントロールモードに入ってしまうので……」と気合いを見せた。
JN-2クラスは、初日の4SSすべてでトップタイムを並べた貝原聖也/西﨑佳代子(トヨタGRヤリス)が、首位を快走。2番手につける山田啓介/藤井俊樹(GRヤリス)に26.1秒差をつけて初日を終えた。46.9秒差の3番手に大倉聡/豊田耕司(トヨタGRヤリスDAT)が続く。
SS1で3番手につけた小泉敏志/村山朋香(GRヤリス)は、SS2でターボトラブルにより戦線離脱。SS2を終えて3番手につけていた三枝聖弥/木村裕介(トヨタGRヤリス)は、SS3のステージ中盤で側溝にハマってタイムロス。なんとかラリーを続行したものの、SS4を終えて首位から7分以上離れた最下位に沈んだ。また、カムイ、ラリー北海道とグラベル2戦を制した、MORIZO Challenge Cup(MCC)の大竹直生/橋本美咲(GRヤリス)は、セッティングに苦しみ、2分52秒9差の9番手に沈んでいる。
優勝候補の山田を全ステージで上まわって見せた貝原は「リードは25秒くらいありますが、以前1分のタイム差をまくってきた人なので……(笑)。それよりも、久々にJN-2クラスでベストタイムを獲得できたことが嬉しいです。カヤバさんのご協力でダンパーを調整してきたのですが、すごくフィーリングがよくて、落ち着いてドライブできています」と、納得の表情。2番手の山田は「このクルマで久しぶりの参戦だったので、厳しい展開になりました。午後はタイム的には縮まりましたが、追いつくまでには至りませんでしたね。明日はしっかりついていきつつ、プレッシャーをかけて、やれることをやろうと思います。無理する必要はなく、2位で十分だと思っています」と、タイトル争いを重視している姿勢を見せた。
トヨタGR86/スバルBRZによって争われるJN-3クラスは、前戦のラリー北海道でシリーズチャンピオンを確定させた山本悠太/立久井和子(GR86)がSS1でベストタイム。しかし、その後は様々なトラブルが重なり、思うようにペースを上げることができない。山本が後退した一方、深い霧に覆われたSS2で2番手を24.2秒引き離すベストタイムをマークした曽根崇仁/小川由起(GR86)が首位に立った。SS3でも連続ベストを刻んだ曽根は、首位をキープして初日を終える。SS4を制した山口清司/丸山晃助(GR86)が、上原淳/漆戸あゆみ(スバルBRZ)を抜いて、首位から42.5秒差の2番手。山口にわずか5.4秒差の3番手に上原、さらに2.9秒差の4番手に山本がつけている。
変化の激しいコンディションでベテランの強みを見せた曽根は「SS2でかなりタイムを稼げましたし、SS3も良いタイムで上がれました。午後のSS4は路面が乾いてきて、山口選手が使うヨコハマタイヤに合ったコンディションになりましたね。僕らはウエットタイヤを履いていたので、仕方がないです」と、納得の表情。2番手の山口は「とりあえず、SS4でベストが獲得できました。クルマもドライビングも、だいぶ良くなってきましたね。明日は曽根選手を狙っていきたいですが、コンディションやセッティング悩んでいます」と、最終日に逆転を狙う。
JN-5クラスは、シリーズ3連覇の可能性を残す松倉拓郎/山田真記子(トヨタ・ヤリス)が、SS2で山肌の壁にヒットしてサスペンションを破損し、早々と戦線離脱。SS1からSS3まで連続ベストタイムをマークした河本拓哉/有川大輔(マツダ・デミオ15MB)がラリーをリードする。SS4は2番手につける小川剛/山本祐也(ヤリス)がベストを記録するが、首位河本との差は1分50秒7。小川から2.4秒差の3番手に阪口知洋/野口智恵美(日産マーチNISMO S)。2分36秒2差の4番手に島根剛/粕川凌(トヨタ・ヤリス)がつける。
2番手以下に大差をつけた河本は「確かにマージンはありますが、小川選手のペースも速いので、安心はしていません。SS3ではヒヤリとする瞬間もありましたし、この差でも落ち着いて走る必要があります。最終日は、自分が試されることになると思っています」と、冷静にコメントした。
JN-Xクラスは、前戦ラリー北海道の段階で今シーズンのチャンピオンを確定させた天野智之/井上裕紀子が、ターマックではクルマをトヨタRAV4 PHEVに戻して全ステージでベストタイム。2番手につける清水和夫/山本磨美(トヨタ・ヤリス)に3分27秒7、3番手の中西昌人/山村浩三(ホンダCR-Z)に8分04秒0の大差をつけて、初日を首位で折り返した。
2番手以下を圧倒した天野は「今日は霧がかなりひどかったです。前が見えなくて、ヒヤっとしたこともありました。ラインも読めないので、2回くらい苔を踏んで危ない場面もあったほどです」と、コメント。天野の先行を許したものの、中西に大差をつけて2番手を走行した清水は「今日は気持ちよく走れました。霧が出たけど、昔のラリーは夜道を走っていたから、その頃を思い出しましたね。全然慣れているというか、こんなものと思って走りました。明日はとにかく無事にフィニッシュを目指します」と、慎重に語っている。
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