AXCR2023:チーム三菱ラリーアートの新型トライトン ラリーカー開発陣に聞く – RALLYPLUS.NET ラリープラス
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AXCR2023:チーム三菱ラリーアートの新型トライトン ラリーカー開発陣に聞く

©MITSUBISHI MOTORS

三菱自動車は、8月13日〜19日にタイ~ラオスで開催されるアジアクロスカントリーラリー(AXCR)2023の参戦に使用する新型トライトンと、サポートカーとして使用するデリカD:5を公開した。このAXCR本戦に備え、6月下旬に行われたタイのテストに帯同した三菱自動車の技術陣に話を聞いた。


「総合力ではかなりポテンシャルがあると感じています」
商品戦略本部 布野洋

Naoki Kobayashi


開発の取りまとめを行ったのは、商品戦略本部の布野洋。量産車の商品力評価部長を務めており、プロジェクトには22年大会の準備段階からずっと携わっているという。今回のテストはトラブルもなく、大きな収穫を得ることができたと振り返る。

「2台とも約800kmをノートラブルで乗り切ったというのは、大きな収穫です。とはいえ、まだ色々と改良しなければならない部分もありそうですし、実戦ではテストで使用したコースと違う速度、違う環境なので、本戦に向けてしっかりと準備を進めていきたいですね。
 今回のクルマはフレーム、ボディ、エンジン、電装系、シャシー、すべてが新しい完全な新型です。22年のクルマで得られたデータを基に車体への入力などを想定してクルマづくりを進めてきました。コースは昨年と比べてやや低速で条件の悪い路面になる可能性があります。量産車が持っている耐久性や信頼性などの長所を引き出しながら、ラリーカーでもそれを達成していくという点が重要だと思います。
 トランスミッションや駆動系などに量産車のパーツを多く使っている関係上、エンジンはドライバビリティを改善することにかなり注力してもらいました。マックスパワーの追求よりも、パーシャル域のトルクを早く立ち上げてレスポンスを良くし、全体的な運転のしやすさを重視しました。テストではドライバーに非常に好評でしたね。
 とにかくチームとドライバーが非常にいいので、総合力ではかなりポテンシャルがあるんじゃないかと感じています。22年は勝てましたが、まだ挑戦している立場ですし、簡単なことだとは思っていないので、きちんと準備をして、まずはちゃんとスタートラインに立つ。ぬかりなくやっていきたいです」


「量産チームの情報も共有し、技術的な面で万全を期したい」
第一車両技術開発本部 相羽規芳

Naoki Kobayashi


車体を担当したのは、第一車両技術開発本部の車両実験部に属する相羽規芳。22年のAXCR本戦の少し前からプロジェクトに携わり、23年大会に向けて唯一の専任として担当することになったという。2005年〜2009年にはダカールラリー参戦車両の車体開発にも携わった経歴をもつ。新型トライトンについては、22年11月のラリーが終わった直後から着手し、開発を進めてきた。開発にあたってのポイントはどのようなものなのか尋ねた。

「開発のポイントは大きく4つほどあります。まずは泥濘路でもしっかりと走れるようにタイヤサイズの選定をし直しました。岡崎側で3サイズの評価を行い、泥濘路での走破性を重視したものとしました。具体的には265を235に狭めて、脱出性を高めています。ふたつ目はリヤのダンパーを新設計とし、容量を増やしてリヤの接地性を高めたものをテストに持ち込みました。メインとサブのダンパーを装着し、油圧のバンプストッパーを追加しました。ラリー専用に用意したリーフスプリングと、ダンパーの補助スプリング、油圧のバンプストッパーの高さなどがチューニングの要素となります。ドライバーの評価を聞きながら、これらの調整を進めています。油圧のバンプストッパーはフロントにも採用しました。
 3つ目は22年のデータを参考に、フレームに補強を入れて剛性を高めています。クルマが新型になるタイミングなので、量産車開発チームと並行してラリーカーを製作しなければなりませんでしたが、量産チームの情報も共有しています。ラリーカーに仕立てる際に、必要な補強や部品の変更をしてきました。最後は、昨年よりもさらに軽量化を進めた点です。軽量化パーツ自体はタントスポーツで作成してもらいました。ベース車が新型となったことで増えた重量を、全部帳消しにするくらいの軽量化です。目標は22年型と同じくらいの重量ですね。
 また、駆動系やトランスミッションは量産のままの仕様で、前後のLSDを追加した程度です。タイでの耐久試験では、量産車の部品でダメージを受けたところはほとんどありませんので、ベース車のポテンシャルは非常に高いと考えています。今年もなんとか良い成績を収められるように、技術的な面では万全を期したいと思っています」

Naoki Kobayashi


「パーシャル領域でのレスポンスを目一杯上げています」
EV・パワートレイン技術開発本部 柴山隆

Naoki Kobayashi


トライトンに搭載されるエンジンは4N16型の4気筒ターボディーゼル。排気量は2442㏄で量産車と同様だ。エンジン開発を担当する柴山隆は、かつて2002年から2009年にかけてモータースポーツのエンジンに携わった経歴をもつ。以降は量産車のガソリンエンジンの適合を専門としていたが、21年の9月頃からこのAXCRのプロジェクトにかかわることとなった。新型トライトンに搭載されるエンジンの特徴や開発の狙いについてを聞いた。

「新しい4N16型エンジンは、排気量は従来と同じですが、ブロックが刷新され、強度も向上しています。ラリーカーでは、量産車に向けて開発している先行部品も投入していて、現状では低回転域から高回転域まで、ワイドレンジでトルクを発揮できています。特にクロスカントリーラリーでは、低速トルク、2000回転を切るくらいの領域を使うシチュエーションもあります。たとえば砂丘やマッドな路面では回転を上げてしまうと路面が掘れてしまうので、低速でジワジワ粘ってほしいわけです。そのあたりを少しは改良できたのですが、今回のテストコースでも1800回転以下の領域が必要だと。やはりドライバーにとってはまだ足りない部分がありますが、手応えはあります。
 また、AXCRでは排気量の大きなライバルが出てきますが、パワーで勝つのは厳しいので、パーシャル領域でのレスポンスを目一杯上げています。燃料噴射時期など、一番効果的な部分を探して、それを全域で繋げていくという考え方は、これまでのモータースポーツでの経験が活きている部分でもありますね。
 チームの雰囲気はものすごくいいですし、本戦でももう1回ポディウムを狙っていきたいと思います」

Naoki Kobayashi


「モータースポーツは未知の世界でしたが、刺激的です」
電子システム開発部 井森悠

Naoki Kobayashi


今回のプロジェクトには、初めてモータースポーツ関連の仕事に取り組むエンジニアもいる。それが電装関係を担当する井森悠だ。普段は電子システム開発部で電子実験部で電装全般の試験を実施しているが、電気的な専門家が必要ということでAXCRに参加することとなった。トライトンはプロトタイプではなく量産車をベースとしているため、様々なシステムが残っている状態なのだという。

「主なところで言うと、ECUのソフトの設定を行いました。量産車には必要なものだけどラリーカーに必要ない設定を、どんどん外していきます。ただ、それによってフェイルが出てしまうことがあるので、それをひとつひとつ解決していきます。そのフェイルがどのように影響するかというのを調べるのも、大変なところですね。
 基本的には普段の仕事と大きくは変わらないのですが、やはりスピード感が求められます。その点は想定内の部分ですが、問題解決力が鍛えられたなというのは実感しています。悩んでいても進みませんし、とにかく分からないことがあったら、すぐに聞いたり、試してみたり。そういうフットワークの軽さが必要かなと感じました。あとは専門以外の分野、たとえばエンジンや足まわりについてもちゃんと勉強しないとダメだなって。何してもフェイルが消えないと思っていたら、部品の名前を勘違いしていたこともありました(苦笑)。
 モータースポーツはまったく未知の世界だったので、何が起きるか分からないという不安はありましたが、刺激的ですね。今までにない経験ができて、増岡浩総監督をはじめレジェンドの方々とともに取り組むことができ、光栄です」


「また勝ちを狙って、チーム一丸となって頑張っていきたい」
第一車両技術開発本部 小出一登

Naoki Kobayashi


車両の基礎開発は北海道でも行われた。増岡総監督とともにテストドライバーを務めた小出一登は、第一車両技術開発本部で運転教育を担当するドライビングインストラクターでもある。入社後は車両実験部の耐久試験グループに属し、数々の量産車の耐久性をチェックしてきた経歴ももつ。22年型ラリーカーの開発に携わり、国内でのテストを主に担当してきた。

「去年のクルマから開発ドライバーをやらせてもらっています。十勝の研究所の方でラリースペックのエンジン・駆動系を移植した車両で、耐久性の確認のために走り込みをしました。今回も同じく十勝でエンジンと駆動系の確認をして、タイのテストに帯同しました。今回はドライバーが現地入りする前に、増岡総監督とふたりでサスペンションの初期設定といいますか、おおまかなベースを出す仕事をしました。競技車両はセッティングできる幅が広いので、その分ベースの設定は大変でしたが、増岡総監督からはセッティングの出し方をずいぶん教わり、勉強になりました。ゆっくり走ってしまうと固いんですが、レーシングスピードだとちょうどいい、みたいな部分もしっかり見極めなければと思います。今回、タイのテストで初めて油圧バンプストッパーを装着したクルマに乗りましたが、抜群に良かったですね。走破性はもちろん、ジャンプした後の着地の姿勢も非常にいいです。『サスペンションやダンパーが違うと、クルマってこんなに変わるのか』と思いました。
 間もなく本戦ですが、やっぱり22年も勝っていますし、今年は新しい車両なので、また勝ちを狙いたいですね。しっかり準備をして、チーム一丸となって頑張っていきたいなと思っています」

MITSUBISHI MOTORS


ラリーは8月13日にタイ・パッタヤーでスタートし、19日にラオスでフィニッシュとなる。総走行距離は約2000km、競技区間は1000kmを超える予定だ。



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