ラトバラ、トヨタのWRCチーム代表の職は「受けると決めるまで30秒」 – RALLYPLUS.NET ラリープラス

ラトバラ、トヨタのWRCチーム代表の職は「受けると決めるまで30秒」

©Naoki Kobayashi

2020年のWRCドライバーズチャンピオン、セバスチャン・オジエは、37歳で迎える2021年、8度目の世界タイトル獲得を目指してシーズンをスタートする。一方で、現在35歳のヤリ‐マティ・ラトバラも、悲願の世界タイトルを自身の手で獲得する夢をあきらめてはいない。

オジエが専念するのはドライバーズタイトルだが、ラトバラがターゲットにするのはマニュファクチャラーズタイトル。2021年は、オジエのチームボスとして、WRCを戦う。2008年、22歳でWRC優勝最年少記録を打ち立てたラトバラは、同じフィンランド出身のレジェンド、トミ・マキネンの後任としてトヨタのチーム代表に電撃就任した。

トヨタがこのニュースを発信した直後の独自電話取材に対して、ラトバラは、なぜこの職に就くことを決めたのか、3年連続でドライバーズ選手権2位に入ったWRCでマシンの乗ることはもうなくなってしまうのか、なぜ兵役時代の経験が、単なるドライバーとしてではなく、指導者としての道を歩むことに役立つのかを語った。

「日本のトヨタからこの役職を提示された時は、爆弾が落ちたかのような衝撃だった」とラトバラは、このオファーが予想外であったことを語っている。
「彼らが自分に、そのような役目を与えようと考えるなんて、思ってもみなかったことだ。それを受けるかどうかを決めるのにかかった時間は、30秒くらい。躊躇した唯一の要素は、自分がこれをやると決めたら、もうWRCで走ることはなくなるということだった。それ以外は、答えは明白だった」

理論的には、かなりの犠牲を払うであろうことは明らかだった。しかし、トヨタが2020年のWRCラインナップからラトバラを解任することを決め、その年の2月のラリースウェーデンに、メカニカルトラブルが続出したセミワークスのヤリスWRCで参戦することで収めたことを考えれば、皮肉な話だ。

「トヨタと契約した時、自分はこう言った。自分はドライバーだし、ドライビングを止めることはできない。これは自分に流れる血のようなものだ。だから、自分にはドライブする可能性を持ち続けることが必要。だから、自分はWRCからは引退するが、自分の持つトヨタ車でヒストリックイベントで走りたいと彼らに伝えた。一年中、机の上で仕事をするなんて自分にはできない。フリーの時間がある時にはドライバーであり続けたいし、そこは何が何でも譲れない」

ラトバラが2003年に英国ラリー選手権戦のサウスオブイングランド/テンペストラリーで優勝したのは、18歳と半年の時だった。WRCキャリアとしては、マシンのトラブルや重要な局面でポイントを逃すなど多くの犠牲を伴う波乱続きではあったが、持ち前の速さは誰もが疑う余地のないものだった。

ラリー1マシンがハイブリッド規定となる2022年からWRCに復帰することを目指していたラトバラにとって、WRCトップレベルでのドライビングをやめるという決断は、なかなか受け入れられるものではなかっただろう。

「正直な話をすれば、自分は40歳まで走り続けると思っていたし、2019年の終わりの時点でさえ、復帰への希望をあきらめてはいなかった」とラトバラは明かした。
「でも、その後、あのラリースウェーデンに参戦して(マシンの)トラブルがあり、ラリーは序盤から悪い流れで進んでしまった。サルディニア、フィンランド、たぶんウエールズにも、参戦するというプランもあったが、新型コロナウイルスの影響で、多くのラリーが開催されなかった。その段階で、チャンスはなくなっていくだろうと自覚していた」

「2022年マシンの開発プログラムか何かに参加できるかもしれないという思いは、少し持っていた。それから、シートを獲得するのはだんだん難しくなっていくと感じ始めた。豊田章男さんからチーム代表にならないかと話をされたら、それを断ることなんてできない。人生で一度あるかないかのチャンスだ。イエスと言う以外、ないよ」

なぜラトバラは、自分がトヨタにとってのチャレンジのために適任だと考えたのだろうか。

「まず、チームが立ち上がった時から自分は関わっていたこと」とラトバラ。
「WRCの経験も豊富だし、たくさん走ってもきた。トヨタは、ドライバー目線での人材を求めていたのだろうね。次に、彼らはメディアとコミュニケーションが取れる人材を探していたが、チームのスタッフともコミュニケーションがとれて、どうすれば成長できるか、問題が起こればそれを検討する相談ができる人を求めていた」

彼は何かトラブルに遭った経験があったのだろうか? という問いにラトバラは
「改善すべき部分について考えない日ができた時は、改善ができなくなる時だ」と答えた。
「僕らは、成長を続けなくてはならない。フォルクスワーゲンのようにチームとして、毎年のように3タイトルを獲得できるような成功を収めたければ、本当に強くならなくてはならない。僕らは、それを目指している。トミは素晴らしい仕事をしてきたし、チームのレベルも非常に高いが、それでも改善できる部分は必ずあるものなんだ」

ラトバラは、WRCの知識と情熱は十分に持っているかもしれないが、チーム運営はまったく別のゲームであることはすぐに受け入れている。

「OK、自分はリーダーを務めたことはあまりないかもしれないが、この1年はフィンランドで会社を経営していたし、軍にいた時には長を務める訓練も行っていた。しかし、トミのようにチームをまるごと運営するような、しっかりした役職にはついたことがないし、すべてをゼロから始めなくてはならない。チームのレベルは高いし、チームを前進させるために、すべてのことに自分のほかの3人のディレクターが関わって、一緒に取り組んでいる」

しかし、WRC指折りのナイスガイのラトバラだが、この厳しい決断を受け入れる準備はできているのだろうか。

「試練になることは分かっている。難しさは常にあるだろう。でも、彼らにどうアプローチするか、ということが一番重要だ。何かを提案する時に、悪者になる必要はない。問題を見つけなくてはならないし、それを隠すのではなく、解決しなくてはならない。それをいい形で行えばいいんだ」

ラトバラは、マスコミに対応してチームに笑顔を振りまくために雇われたのではない。
「もちろん、自分たちは勝つために参戦するし、負ける時もある」とラトバラ。
「基本的には、トヨタが求めているのはマニュファクチャラーズ選手権のタイトル。そして、もし同じ年にドライバーズ/コ・ドライバーズのタイトルが獲れたら、言うことはないだろう。僕らはドライバーたちに、ラリーに勝てるマシンを確実に供給できるようにするだけ。僕らには、それを実現できるドライバーが揃っている」

ラトバラはこれまで、マルコム・ウィルソン、ヨースト・カピート、トミ・マキネンというWRC屈指の名将の元で、ドライバーとして走ってきており、何年にも渡る経験の中で彼らの仕事を見てきた。

「自分がこれまでお世話になってきたチームディレクターから、それぞれのいいところすべてを組み合わせていこうと思う。マルコムとは、握手ですべてがまとまる。契約は必要ない。それは、自分がとても感謝したことだった」

「ヨーストは、チームやスタッフに100%の自信を持っていた。必要な部分に集中していた。テクニカルサイドにはあまり関わりを大きくすることはなかった。適切なスタッフがいることが分かっていたからだ」

「トミは、もしラリーがうまく行かなかったりミスをした時も、ドライバーとしてどのように克服すればいいかがハッキリ分かっていた。決して責めることはせず、難しい状態が続いている時もとても支えてくれていたので、これは自分がチーム代表として採り入れようとしている大切な財産だ」

ラトバラは、思いやりのある側面を示すだけでなく、ラリー1の時代に先駆けて2022年の規定を理解する必要があることを分かっている。

「とにかく規定を知らなくてはならない」とラトバラ。
「自分は規定変更をずっと追って確認しているので、技術面でどのようになるのかということは少しは分かっている。新マシンはセンターデフがなく、サスペンションのトラベルも短くなり、エアロダイナミクスも少なくなる。マシンは、よりドライビングが難しくなり、ドリフトが増える。このように、ますます多くのスキルが生まれる。とても興味深いね」
(Graham Lister)



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