記憶に残るこの一戦:2002年サファリ、サバイバルを制したコリン・マクレー – RALLYPLUS.NET ラリープラス

記憶に残るこの一戦:2002年サファリ、サバイバルを制したコリン・マクレー

©Naoki Kobayashi

本来であれば今頃は、18年ぶりのサファリ・ウイナーを称えていたのだろうか。

2002年を最後にWRC開催から離れていたサファリラリーは、2020年7月16~19日に第8戦としてWRCカレンダーに復活。しかし、ご存じのとおり、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大を受けて、主催者は開催断念を決定した。2021年の開催に向けて、全力を注ぐというステートメントを発表したのである。

日本のラリーファンにとって“サファリ”の名前は特別である。石原裕次郎主演の「栄光への5000キロ」。240Zやバイオレットでサファリ最強を誇ったダットサン/日産。ダルマ・ランサーで勝利を刻んだ三菱。グループB時代にセリカ・ツインカムターボで3連覇を飾ったトヨタ。そして、ジャイアントキラーとして名を轟かせたダイハツ……。世界に打って出ようとしていた当時の日本メーカーにとって、アフリカの大地は格好のアピールの場だったのだ。

NISSAN

もちろん欧州メーカーとしてもサファリでの勝利は魅力的であり、70年代から90年代にかけてプジョー、ポルシェ、メルセデス、アウディ、ランチアがサファリに挑んでいった。しかし、90年代後半に入ると、ヨーロッパから遠く、特別な装備を必要とするサファリは、チームにとって大きな負担となる。さらに治安悪化なども重なり、当時テレビ中継に特化したフォーマット化に邁進していたWRCと、サファリは徐々に噛み合わせが悪くなっていく。

そして、現時点で最後のWRC開催となった2002年。かつて昼夜をかけて5000kmを走破したサファリは、50回記念となる大会にクローバーリーフ形式を導入した。スタート&フィニッシュは首都ナイロビだが、サービスパークはナイロビから85km離れたススワに置き、ここを拠点として4つのコースを設定する史上最もコンパクトなレイアウトを採用したのである。4つのコースを切り分けて12のCS(コンペティティブ・セクション)とした。それでも多くのドライバーやチームにとって、サファリは十分ワイルドだった。少なくなったとはいえ、CS総走行距離は他のイベントを圧倒する1010.80km。100kmを超えるCSは3つ設定された。

Naoki Kobayashi

この年は、数年ぶりとなるタフなコンディションも重なり、ラフな路面が次々とトップドライバーたちを飲み込んでいく。初日の段階でプジョーのマーカス・グロンホルム、スバルのぺター・ソルベルグ、三菱のフランソワ・デルクールが脱落。トップを走行していたスバルのトミ・マキネンも、足まわりを壊してレグ2でリタイア。プジョーのリチャード・バーンズ、フォードのカルロス・サインツ、シュコダのケネス・エリクソンとトニ・ガルデマイスター、ヒュンダイのアルミン・シュバルツとフレディ・ロイクスもラリーを走り切ることができなかった。

マキネンのリタイア後にトップに立ち、そのままポジションを守り切ったフォードのコリン・マクレーが優勝。2位にはプジョーのハリ・ロバンペラ(ご存じ、カッレ・ロバンペラの父親だ)、3位にはテスト参戦したシトロエンのトマス・ラドストロームが入った。完走わずか11台、ワークス勢10台を含む37台がリタイアに終わっている。

Naoki Kobayashi

さて、優勝を手にしたフォードは、サファリ優勝をフォーカスの販売に役立てただろうか。答えは「否」。残念ながら、すでにアフリカでの成功は、市販モデルのPRにはなり得ない時代となっていた。そのうえケニアは自動車メーカーにとって市場規模も小さく、費用対効果を考えれば「無駄」と切り捨てられても仕方がなかったのだ。主催者の慢性的な資金不足も重なり、この年が最後のWRC開催となった。

Naoki Kobayashi

その後、サファリはケニア選手権/アフリカ選手権として開催。また、ジェントルマンのためのヒストリックカーラリーイベント「イースト・アフリカン・サファリ・クラシック」が2年おきに行われ、世界的な人気を集めてきた。このままサファリはノスタルジーを極めた一戦として、ラリーエンスージアストから愛されていくのだろうと、多くの人が思っていたはずだ。

McKlein

ところが、2010年代に入ると、風向きが少しずつ変わり始める。WRCの画一化を嫌ったジャン・トッドやミッシェル・ムートンが、「WRCに冒険の日々を取り戻したい」といった主張を行うようになったのだ。さらにケニア政府の後押しもあり、2018年には主催者がWRC開催を目指すと宣言。2019年にはキャンディデートイベントも成功させ、ラリージャパンとともに2020年のWRCカレンダーに復帰を果たしたのである。

先に述べたように、今年のサファリは残念ながら、ラリーとは無関係の不可抗力により開催を断念した。現役トップドライバー誰ひとりとして走ったことのないアフリカの大地で、現行WRカーがどんな走りを見せてくれるのか……。お楽しみは、1年後にとっておこう。

2002年サファリラリー 最終結果
1 C.マクレー/N.グリスト(フォード・フォーカスRS WRC) 7:58:28.0
2 H.ロバンペラ/R.ピエティライネン(プジョー206WRC) +2:50.9
3 T.ラドストローム/D.ジローデ(シトロエン・クサラWRC) +18:38.6
4 M.マルティン/M.パーク(フォード・フォーカスRS WRC) +21:28.0
5 S.ローブ/D.エレナ(シトロエン・クサラWRC) +21:48.1
6 G.パニッツィ/H.パニッツィ(プジョー206WRC) +34:41.0
7 R.クレスタ/J.トマネク(シュコダ・オクタビアWRC) +54:38.1
8 J.カンクネン/J.レポ(ヒュンダイ・アクセントWRC3) +1:11:31.5
9 A.マクレー/D.セニア(三菱ランサーエボリューションWRC) +1:17:13.2
10 K.シン/A.オー(プロトン・パート) +2:29:27.2
主なリタイア
R.バーンズ/R.レイド(プジョー206WRC) ホイール損失
M.グロンホルム/T.ラウティアイネン(プジョー206WRC) エンジントラブル
C.サインツ/L.モヤ(フォード・フォーカスRS WRC) 油圧トラブル
F.デルクール/D.グラタルー(三菱ランサーエボリューションWRC) エンジントラブル
T.マキネン/K.リンドストローム(スバル・インプレッサWRC2002) サスペンション
P.ソルベルグ/P.ミルズ(スバル・インプレッサWRC2002) エンジントラブル
K.エリクソン/T.トーナー(シュコダ・オクタビアWRC) ギヤボックス
T.ガルデマイスター/P.ルカンダー(シュコダ・オクタビアWRC) ホイール損失
A.シュバルツ/M.ヒーマー(ヒュンダイ・アクセントWRC3) オルタネーター
F.ロイクス/S.スミーツ(ヒュンダイ・アクセントWRC3) クラッチ
新井敏弘/T.サーカム(スバル・インプレッサWRX) クラッチ



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