
©Naoki Kobayashi
三菱自動車工業株式会社は、アジアクロスカントリーラリー(AXCR)2025に参戦するチーム三菱ラリーアートの取材会を東京品川区田町の本社にて行った。チーム三菱ラリーアートは2023年から新型1トンピックアップトラックの『トライトン』で同ラリーに参戦しており、今回の取材会では増岡浩総監督のほか、日本人クルー2組も参加して、それぞれ意気込みを語った。
すでに発表されているとおり、25年大会には3台体制での参戦となる。ドライバー/コ・ドライバーは、2022年大会で総合優勝を果たしたチャヤポン・ヨーター(タイ)/ピーラポン・ソムバットウォン(タイ)、24年はチーム最上位の5位となった田口勝彦/保井隆宏、三菱自動車開発部門のテストドライバーである小出一登とAXCRの経験豊富な千葉栄二がコンビを組む布陣。チームはタイのタントスポーツが運営し、三菱自動車工業が技術支援を行う格好だ。また、昨年同様に地元タイの三菱自動車ディーラーからメカニックがチームに参加し、地元での機運醸成にもつなげる狙い。
2025年に開催30回目を迎えるAXCRは、タイをスタートにカンボジアでフィニッシュする予定だったが、国境付近での政情不安のためタイ国内のみで8日間、トータル3300kmで争われる。8月8日(金)にパタヤでセレモニアルスタートを行い、競技は翌9日(土)からスタート。プラチンブリ、カオヤイなど、タイ南東部のエリアを中心に設定されたコースを走り、16日(土)に再びパタヤでフィニッシュを迎える。ヨーターと田口はMT車、小出は競技用に最適化されたAT車で参戦し、技術検証とともにチームメイトのサポートを担当する。
チーム三菱ラリーアート総監督 増岡浩
万全を期して王座奪還を目指します
「今年は2トップに集中して、クイックサポートを加えた3台で戦うことになりました。距離や日数が長くなるとチームの総合力が問われます。ひとりでも多くのスタッフを1台のクルマに充てられるようにして、完璧なメンテナンスを行います。今年は新型『トライトン』で3度目の正直。必勝体制で狙っていきます。
クルマは6月にタイでの耐久試験を行ない、エンジンの耐久性、レスポンス、出力向上を確認しました。また、かなりサスペンションに力を入れて、さらに悪路での走行安定性を高めています。フロントにスタビライザーを装着して、ハンドリングもかなり改良しました。外観には大きな変更はありませんが、中身はかなりアップグレードされましたね。
ライバルは大きなエンジンを積んでいるので、直線が長いと厳しいですが、だいたいこのラリーは60km/hから120km/hくらいの範囲なんです。だから、中間加速をいかに良くするか。その意味ではうちのエンジンはレスポンスが良いので、ライバルに負けているとは思わないですね。あとは乗りやすさでドライバーの疲労をためず、長丁場を乗り切ってもらいます。
チャヤポン選手も田口選手も、回数を重ねて経験をしっかり積んできていますから、とにかくこのふたりにはトップを狙って思い切り走ってもらいます。小出選手はほとんど市販車に近いクルマに乗ってもらっていますが、今年はリヤサスペンションを4リンクとして、他の2台とで同じような方式にしました。なおかつ今年はAT車両で参戦します。2台のサポートをしながら開発試験と色々なデータ収集を行ない、今後のクルマづくりに役立てると。そんな布陣で考えています。コースは難しくなっても、みんな条件は一緒ですから、絶対負けないチーム体制とクルマで、万全を期して3度目の正直、王座奪還を目指して頑張ってもらおうと思います。
我々のチームの目指すところは、ドライバーもスタッフも、みんな無事故でゴール地点に戻ることがまず第一で、次にやっぱり最高の結果を残すこと。これが第二ですよね。そういった意味では、ラリーって天候ひとつでまったく違うゲームになってしまうので、その場その場で的確な指示を出して、とにかくチームワークで乗り切るしかありません。ドライバーには、とにかくゆっくりでもいいからミスしないで、抜かれなければポジションはキープできるので、良い意味で肩の力を抜いて、確実に、的確に、最後まで止まらずに走るというところがポイントになると思います。そこは上手くみんなをコントロールして、進めていきたいなと思います。
105号車ドライバー 田口勝彦
ステアリングのレスポンスも良好。クルマ的にはすごく進化している
「去年のラリーが終わってから、自分のインカービデオとチャヤポンのものを全行程調べたんです。それを2kmごとに、同じジャンクションに行くまでの速さなどを検証しました。普通に走っているところのペースでは負けていないわけです。で、チャヤポンも僕らもミスコースした回数はほぼ同じくらい。だからトップを走れる選手でも、一定数のミスコースを必ずするのがこのラリーだと。じゃあどうしたらいいのかということで、みんなで練習に行きました。チャヤポンのナビのピーラポンも来てくれて、普通のトライトンに5名乗車で(笑)。ミスコースしたところにもう1回行って細かく調べました。オーガナイザーからもらうコマ図の距離、トリップメーターやGPSのズレもありました。そういうのは現地に行ってみないと分からないことですから。
ドライバー的には、スタビライザーの取り付けが一番大きいですね。クルマのロールはスタビで抑えられるから、よりソフトなスプリングをチョイスできるようになった。ステアリングを切った時のレスポンスが圧倒的に良くなったので、アンダーステアがかなり軽減して、アクセルを踏むタイミングも早くできる。クルマ的にはすごく進化したので、より上位を狙います」
105号車コ・ドライバー 保井隆宏
ミスコースを少なく、優勝を争えるようにしていきたい
「今年は、去年の確かめ算ができたことも含めて、ミスコースを少なく、より正確にドライビングができるようにして、優勝を争えるようにしていきたいなと思います。
ただ単に速く走ればいいってだけじゃないのがこのラリーの難しさですね。ドライバーとのコミュニケーションも重要で、コマ図の中にある色々な目標物を探すというのも必要になってきます。1回迷ってしまうとリカバリーするために1分、2分使ってしまうこともあります。クルマが1kmあたり2秒速くなったとしても、その分のアドバンテージをすぐに吐き出してしまうので、やっぱり迷わないようにすることが一番かなと思います。
たとえば分岐点で“道なり”と言われても、僕らにはどっちがメインか分からないこともあるんです。両方一緒にしか見えない。でも、現地の選手たちは路面の色が違うとか、木の間を縫うような道でも、ここはメイン、こっちは違うっていうのがパッと見た瞬間に分かるらしい。そうしたテクニックも、AXCRでは必要になってくると思っています」
118号車ドライバー 小出一登
去年よりは上のポジションでサポートを。精一杯頑張ります
「去年は初めてのラリーということと、プレッシャーもすごく感じていたこともあり、思っていた良い位置でのクイックサポートがなかなかできませんでした。今年は緊張も多少和らいでいますし、クルマもアップグレードしたことで、非常に乗りやすくなっています。AT車は楽に運転できるので、その点はありがたいですね。また、クイックサポートということで、ひどい道で作業することも多いと思いますが、MTよりもATの方が牽引も楽ですし、よりクイックサポート力を上げるためにATを採用したかたちです。
我々は日々テストコース内で色々な試験をして、量産車の信頼性、堅牢性を磨き上げています。AXCRに参戦することで、極限状態のデータも色々収集し、それを市販車にフィードバックしてさらなる性能向上を図る。それも、今回ATを採用した目的のひとつです。
クルマはかなり良くなっていますので、去年よりは上のポジションで、田口さんの下でサポートできたらなと思っていますので、精一杯頑張ります」
118号車コ・ドライバー 千葉栄二
小出選手も2年目で、面白いくらいにスキルアップしている
「僕らコ・ドライバーって、外の景色は半分見られていないんですよ。コマ図を読みながらトリップとの相談で、次に何があるかというのは、実はコマ図の上でしか見られていてない。だからドライバーからのインフォメーションも重要なんです。去年は大変でしたが、今年はドライバーの小出選手も2年目で、面白いくらいにスキルアップしているので、今年は僕も気を引き締めてかからないといけないなと思っています。
2台をサポートする役目ですが、たとえば泥の中でスタックした1台を助けようとして2台とも失ってしまうことが、このラリーでは本当にあり得ます。もちろんそのあたりの判断は監督の指令によるところですが、やっぱりチームには勝ってほしいので、チャヤポンと田口さん、1号車と2号車のサポートに全力を尽くして頑張りたいと思っています」